トレンドの70年代のディテールとバウハウスにインスパイアされた優しいカラーパレットで描くモダンな紳士像―― ポール・スミス(Paul Smith)の2015-16年秋冬メンズコレクションを一言でいうとこうなる。
まず目に飛び込んでくるのは、80年代と70年代のディテールをいいとこ取りして、現代的にアップデートしたスーツだ。ジャケットはボックスシルエットのシングル3つボタンとダブルブレストで、肩パットがしっかり入り強調されたショルダーラインが特徴。ここ数年のパリのランウェイでは見られなかったラインで、なんだかやけに新鮮に映る。パンツはハイウエストでベルトループがワークパンツのように極太。シルエットはルーズフィットで裾幅は23cm前後とこちらも太めだ。そんな懐かしさと新しさのある絶妙なバランスのスーツを、カットソーやセーターをベルトインで合わせる簡単なようで難易度の高いスタイリングで提案している。
大柄なブロックチェックや、バウハウスの直線的なグラフィックを連想させる三角形も目立ったモチーフのひとつ。ファーストルックのダブルブレストのコートは、グレーとブラウンのトーンをブロックごとに微妙に変えた色合いが魅力的で、ポールのテキスタイルへのこだわりが感じられる一枚。ネイビーとブラックのブロックチェックを織で表現したスーツは、ドレッシーな装いにもカジュアルな装いにも似合いそうだ。三角形のモチーフは、セーターの柄やカットソーのプリント、多くのルックで首元を飾ったネックレスに落とし込まれている。
コートは少しだけ肩の落ちたビッグシルエットがメインで、膝丈のチェスターコート、膝下丈のダウンコートやレザーコート、70年代のロックスター的なマキシ丈のファーのコートなどを提案。全体的に音楽の匂いがするのは、前シーズンと共通している。
カラーパレットは、オートミールカラー、グレー、ライトピーチなどの落ち着いた色合いが中心。「ドイツ人アーティストでバウハウス出身のジョセフ&アニ・アルバース夫妻の作品と、かれらのメキシコの旅からインスピレーションを受けている」という。で、挿し色は、強い日差しを目一杯浴びたような明るいオレンジやグリーンというわけだ。
70年代という流行をストレートではなく老獪な変化球で投げてくるポールは、やはり偉大な名伯楽なのである。
Text by Kaijiro Masuda(Fashion Journalist)