サンローラン(Saint Laurent)の2015-16秋冬メンズコレクションは、18番の極細のスキニーシルエットの中に、フレンチの要素を盛り込んだ“フレンチ・ロック”なスタイルだ。
モデルが登場する前の照明の演出は、毎回ショーの前説的な役割を果たしているが、今回のそれはいつも以上に豪華。キラキラしたオレンジ色の光に包まれながら回転する幻想的な什器は、掛かった金額を心配してしまうほど贅を尽くしたもので、世界中から集まったセレブリティとジャーナリスト、バイヤーをエディの世界に引きずり込むブラックホールのようだ。その幻想的な回転が遅くなるにつれ、中の人影が鮮明となり、誰もが見ることを望んで止まないショーは幕を開けた。そう、今回のイントロはどんな高級ホテルも敵わない“世界一豪奢な回転ドア”なのである。
ドアの中からミサイルのように勢いよく飛び出てくるモデルたちは、相変わらず細身である。いや、間違いなくいつも以上に細く、一緒に歩く女性モデルよりも細かったりする。ハイウエストのデニムの前ポケットか上着のポケットに両手を突っ込んで、俯き加減で足早に歩みを進める姿は、ロック以外の何物でもないが、ディテールやアイテムに目を凝らすと、これまでのUK、西海岸ロックとは少し毛色が異なることが分かる。
アウターやパンツに大きな変化はないが、インナーに様々なバリエーションのボーダーのカットソーやセーター、ドット柄のブラウス、肌が透けるレースのシャツなどを合わせることで、どこかパリの匂いのするロックなスタイルを紡いでいるのだ。男女の性差のないスタイルと言ってもいいかもしれない。さらに、多くのルックで使用されたベレー帽が、アンニュイな雰囲気を加速させている。ヒョウ柄のセーターにショート丈のMA-1を合わせたUKロックなスタイルも、ベレー帽を加えるだけでなぜだかおフランスな佇まいになるのだ。
ジャケットは、白のタキシードジャケット、肩の張ったブラックのシングルブレスト、ラストルックのスパンコールで飾ったジャケットなどを提案。お尻が隠れるやや長めの丈が新鮮に映る。コートは、ウールのピーコート、ベージュのチェスター、シルバーのバルカーマンコートなど、着回しのしやすそうなシンプルなデザインが多い。
パンツは、パリ全体では70年代風のフレアや太めのシルエットが増えている中で、一際細く見える。その細さはもはや超人的で、185cm、55kgみたいな極細のモデルでも太ももやふくらはぎの形が浮き出るほどである。ジーンズはブラックのハイウエスト1択。レザーパンツは、ジッパーを螺旋状に配したものなど、様々なバリエーションで提案した。また、ピンク、ベージュ、シルバーなどを所々で挿してはいるものの、カラーパレットの9割は黒に支配されている。
ロンドン、ミラノ、パリを通じて、細身のシルエットを追求するブランドはほとんど見られなくなったが、逆にここまでスキニーにこだわる姿勢は潔さを通り越して感嘆に値する。それでもいつもより民主的に否選民的に見えたのは、パリの気まぐれな香辛料のせいだろうか……。
Text by Kaijiro Masuda(Fashion Journalist)