ヴェルサーチ(VERSACE)が2016-17年秋冬コレクションを、イタリア・ミラノで発表した。最初に現れたのは、暗闇でランニングする集団。ショートパンツ全体がほのかに光っていたり、足の動きに合わせてラインが光ったりしていて、LEDダンスのパフォーマンスを見ているようだ。夜間用のランニングウェアにリフレクターが付いているのは今では常識だが、街中で前からかれらが走ってきたら、その未来感に腰を抜かすに違いない。
そんな演出でスタートしたからには、フューチャリスティックなショーを期待するのは至極当然である。しかし意外にも、ショーの前半はこれまでのヴェルサーチらしくないグレーのベーシックなスーツが主役。肌が透けそうなくらい薄いタートルネックセーターやシルバーメタリックのステンカラーコート、土星をモチーフにしたアクセサリーで未来的な要素を加えているが、その様は宇宙ステーションで働くビジネスマンのように見える。
中盤に入ると、フライトジャケットの名品に身を包んだ飛行士や作業員が登場する。といっても、アメリカの極寒地用のフライトジャケット「B-3」型のムートンブルゾンはメタリックシルバーで、MA-1やロング丈のM-65は純白色。男らしさをキープしつつ、現代的にアップデートされている。
これらの代表的なアイテムは、インサイドアウト(裏返し)のダブルブレストコート、毛足の長いモヘヤのニット、超ショート丈のバイクレース用の革ジャン、メタリックカラーのシャツ&タイなど。カラーパレットはグレー、ホワイトをベースに、ペールブルー、ネイビー、グリーン、パープル、ベージュなどを挿している。
フィナーレの冒頭で流れた音は、デヴィッド・ボウイが1969年に発表した「Space Oddity」。宇宙への憧れを歌った初期の代表的なヒット曲だが、今回ドナテラが創造したのは少しだけ先の未来。宇宙ステーションでの人間の生活をイメージしたように感じた。なので「Ground control to major Tom♪」の最初のフレーズは、まるでドナテラが天国のデヴィッドに感謝の念を伝えているように聞こえたのである。
TEXT by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)