世界最大規模の時計と宝飾品の見本市であるバーゼル・ワールド。そのエルメス(HERMES)の新パヴィリオンのデザインを日本人建築家の伊東豊雄が手掛け、パヴィリオンの中心に明るく開放感に満ちた空間を作りあげた。
新パヴィリオンは、昨年の2倍の大きさとなる全長34メートル、幅19メートルに及ぶ箱型二階建ての空間。 バーゼル・ワールド期間中にのみ設営されるこのパヴィリオンは、毎年解体して再建することが可能というコンセプトのもと設計された。パヴィリオンの骨組みにあたる部分は鉄骨構造で、外側が直線状と曲線状の木材計624本で覆われており、細かい網目のような木製の外観はまるで半透明の壁だ。
パヴィリオンの角に設けられたエントランスは、波を切って進む船の舳(へさき)のような印象。階段から2階へと進むと、エルメスらしいナチュラルトーンのファブリックで作られた展示スペースが現われ、対照的なメタルのショーケースにエルメスの新作時計の数々が展示されている。
エルメスのジェネラル・アーティスティック・ディレクターであるピエール=アレクシィ・デュマは伊東豊雄について「正確であり、思慮深く繊細。控えめで自然体な、真の情熱家」と語る。エルメスの新パヴィリオンは、建築家・伊東豊雄とエルメスの共通の哲学である「クラフトマンシップ」が具現化されたものとなった。
【デザイナープロフィール】
伊東豊雄
1941年生まれ。1965年東京大学工学部建築学科卒業。建築と自然との調和を操る建築家である。「風の塔」(1986年)など初期の建築は、空気や風のような軽やかさ、儚さを特徴とした作品が多かったが、代表作「せんだいメディアテーク」(2001年)以後、近代主義を超える21世紀の新しい建築を追求し続けている。また、2011年の東日本大震災以後、「せんだいメディアテーク」が被災し、その復旧に携わったことをきっかけに各地の復興活動に精力的に取り組んでいる。
2012年9月には、伊東豊雄がコミッショナーを務め、出展者たちと共に、津波の被害により仮設住宅に住む人々の憩いの場としての 「みんなの家」の設計、施工の全プロセスを展示した日本館が、ヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞(パヴィリオン賞)を受賞。
そして2013年、これまでの活動にたいしてプリツカー建築賞を受賞した。