テルアビブを拠点に活動するイスラエル人アーティスト、シガリット・ランダウ。2011年、第54回ヴェネツィア・ビエンナーレのイスラエル館を代表し、日本では、同年の横浜トリエンナーレで紹介された代表作、西瓜と共に死海を漂うビデオ作品と、死海の塩を結晶化させた彫刻が、記憶に新しい女性作家。生と死、肉体、人々との関わり合いなど、常に「痛み」を伴ってきた自国の歴史を反映した作品を発表している。
そのシガリット・ランダウの日本における初個展、「ウルの牡山羊」 シガリット・ランダウ展が2013年5月17日(金)から8月18日(日)まで、東京・銀座のメゾンエルメス8階にあるフォーラムにて開催される。
本展は二つのインスタレーションを軸に構成。フォーラムにおいても初めての試みとなる大規模なビデオ・プロジェクションによる作品「Out in the Thicket 茂みの中へ」は、4台のプロジェクターを使用し、2層にわたる天井の高い空間を生かしてオリーブの森を表現する。芳醇な実を求め、収穫機で激しく揺さぶられるオリーブの木々。震える森は私たちが抱く神話を崩すかのようにも官能的な痙攣にも感じらる。1つ1つの映像は、垂直に映写されたオリーブの木から成り立ち、イスラエル南部のネゲブ砂漠にあるオリーブ園で撮影されたもの。
「Behold the Fire and the Wood 火と薪はあります」の一部。
もう一方のインスタレーション「Behold the Fire and the Wood 火と薪はあります」では、50年代イスラエルの典型的な空間を出現させ、その家に住んでいたであろう人の生活をひそやかに物語る。台所のコンロからは4人の女性のおしゃべりが聞こえ、重たい扉で仕切られた廊下や居間には作家自身の家族についての秘密が潜んでいるよう。イスラエルに50年代に移住してきた人々の「家」を象徴的に見せながら、この土地の歴史や作家のパーソナルな秘密を浮かび上がらせる。
本展のいずれの作品も底辺には、息子イサクを神に捧げようとした旧約聖書のアブラハムの逸話のように「犠牲」への考察が流れる。暴力的な方法で振るい落されるオリーブの実、戦禍の歴史のなかで家庭を守り続ける女性、ユートピアを夢見て入植しつつ、挫折を味わう一人の青年。常に「犠牲」を内包しながらも、その境界を消滅させる融点や沸点を目指すような、ポジティヴかつ力強い表現は、国や宗教を超えた「希望」を造形化しているともいえる。
「Out in the Thicket 茂みの中へ」のひとつで、オリーブを揺さぶる機械を
人間用に作り直したマシンを体験する、作者のシガリット・ランダウ。
【アート展情報】
「ウルの牡山羊」 シガリット・ランダウ展
The Ram in the Thicket by Sigalit Landau
会期:2013年5月17日(金)~8月18日(日) 月~土曜 11:00~20:00(最終入場19:30)、日曜 11:00~19:00(最終入場18:30) 会期中無休 入場無料
会場:メゾンエルメス8階フォーラム
住所:東京都中央区銀座5-4-1
TEL:03-3569-3300