マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)の2023-24年秋冬コレクションが、フランス・パリで発表された。先シーズンに引き続き、コレクションの着想源となったのは、古代から日本人の暮らしと密接な関わりを持ち続けた“竹籠”だ。
竹籠文化の発展の歴史を支えた作家たちの中でも、デザイナーの黒河内真衣子を魅了し続けるのは、20世紀初頭に活躍した中国の作家・飯塚琅玕斎。琅玕斎作品に共通する荘重な色調、重厚さと軽妙さを併せ持つ造形バランス、伸びやかに交差する線の優雅さは、今季のコレクションにそのまま引用されている。
繊細で装飾的なピースが散見された先シーズンと大きく異なるのは、力強く、シンプルに削ぎ落されたルックが提案されたこと。この変化は、技術の洗練により到達する“竹籠の精緻な美しさ”から、“竹本来の美しさ”への回帰を模索した琅玕斎の精神世界を表現したものだという。
数多の線の交差や、それらが作り出す不規則な影のダンス、籠が内包する無限の軽やかさといった視覚的イメージは抽象化され、プレイフルなグラフィックに。日本でも1社のみが保有する特別な編み機を用いたスライバーニットによるボリューミーなボアコートやベストへと生まれ変わる。
また、職人が1枚ずつ手作業で折り畳み、注染の技術で1枚ずつ染め上げる「折り紙染め」によるアルパカウールのニットにも注目。染められた部分は、竹籠の線のようにおおらかな模様となり、コレクションに軽妙なリズムを付加していく。
“籠の網”を型紙を用いた精緻なプリーツで再現したトップスやスカートは、上品な光沢が魅力的。無数の細かな線が、まるで竹の葉を叩く時雨のように走り、静かな奥行きと躍動をもたらしている。竹を用いたイヤーアクセサリーも、工芸品のような趣でルックに華を添えている。
大胆な柄使いと均衡を保つようにラインナップされるのは、シルクカシミヤ素材のコートやボレロ、胸元のカットアウトが印象的な縮絨ニットなど、シンプルなアイテムたち。マメ クロゴウチのシグネチャーである優美なカーブのカッティングを用いることで、やわらかな「余白」を生み出しているのが特徴的だ。
カラーパレットは、ブラウンやカーキなどあくまでナチュラル。そこへ、竹風が葉を鳴らす月夜を想起させるブラックや情緒豊かなネイビーを差し込んでいる。