ミュベール(MUVEIL)は、2017年春夏コレクションで一人の女性にオマージュを捧げた。長年モード誌でクリエイティブ・ディレクターを務めてきた実在の人物。デザイナー中山路子は、彼女のキャラクターや仕事ぶり、日々の生活から得たインスピレーションをファッションに落とし込む。エレガントでチャーミング、そして実直。今季の洋服たちを纏えば、まるでミューズと直接会話しているかのような不思議な気分に心が浸る。
あちらこちらから顔を出す女性像。ワインが大好きだという彼女をイメージして、グラスやブドウをモチーフに採り入れた。デニムジャケットには、フレッシュなフルーツと食器が並び「乾杯!」という声が聴こえてきそうなほど賑やかなムード。膝下丈スカートのウエストゴム部分には、「べろんべろんに飲んじゃおう(Swilling fruit wine)」と挑発的なメッセージがあしらわれている。
ペットの猫たちは「ご主人さま」と言わんばかりに、堂々とした姿でトップスから現れ、ヘルシー志向の食生活は「グルテンフリー」の合言葉にのせて、優雅に表現されている。また、公の場で度々見かけた奇抜なスタイリング。チャイナドレスやパジャマシャツといった彼女のアイコンは、ミュベールらしく立体的な刺繍と鮮やかな色使いで‟東京のいま”に合った形にリデザインされている。
アイキャッチなデザインと豊かな色彩に恵まれているシーズンであるが、細部へのこだわりは変わりない。蜂の羽根や苺の種までビーズで表現したエンブロイダリー、シャツに施された細かなシャーリング。デニムパンツには、ポケット部分の刺繍にバリエーションを持たせ、レモンや洋梨、ブドウなど様々な果物が揃っている。