メゾン マルジェラ(Maison Margiela)のコレクションを特集。
メゾン マルジェラは、レディ・トゥ・ウェアのコレクションとオートクチュールコレクションを連動させクリエーションを行っている。先に発表されるのが、「アーティザナル」と呼ばれるオートクチュールコレクション、続くのが「デフィレ」と呼ばれるレディ・トゥ・ウェアのコレクションである。
クリエイティブ・ディレクターのジョン・ガリアーノは、オートクチュールコレクションで物語を決め、そのエッセンスを落とし込みレディ・トゥ・ウェアを制作している。
今回は、2017年春夏のオートクチュールコレクションと、2017年秋冬のレディ・トゥ・ウェアコレクションを比較し、その関係性を探る。
※比較写真は、すべて左が「アーティザナル」=オートクチュールコレクション、右が「デフィレ」=レディ・トゥ・ウェアコレクション
ジョン・ガリアーノが、今シーズン重きを置いたのは「洋服の本質を探ること」。色やシルエット、装飾などに、各シーズンごとのフレーバーを加えることがコレクション制作の一つの手法であると思うが、彼の考え方はここから離れたところにあった。本来見えないものを露わにし、余計なものを排除する。このアプローチを繰りかえすことで、洋服の軸となるものを浮かび上がらせる。これが、今季の原点だ。
最も多く用いられた手法が、フランス語で‟皮をむく”という意味を持つ「デコルティケ」と呼ばれるものだ。洋服の大部分を占める前身頃、後ろ身頃の部分がそぎ落とされ、繋ぎ目であるシームの部分が表に。まるでレントゲン写真かのように、洋服の骨格部分を写し出される。
どちらにも登場したブラックドレスは、比較しやすい。ドレスの要ともいえるスカート部分は削除。代わりにリボン状の布が垂れ下がるようにのびている。唯一テキスタイルを贅沢に使っているのがウエスト周り。上半身と下半身の各パーツを繋ぎとめるため、存在感を発揮している。
また、同じ「デコルティケ」の手法でも、チュールやオーガンザなど透明感のある素材を融合させ内側をのぞかせたアプローチもある。同様にブラックのコートで比較。アーム部分やラペル、ボタン周りなどはしっかりとした原型を保っているが、ボディのほとんどは透けている。厚地のテキスタイルとの対峙により、透け感がより一層際立ち、洋服の内面を覗きみたような感覚になる。
「デコルティケ」に続き、重要視されたのは異なる2つの要素を1つにまとめる「スプライシング」法。レディ・トゥ・ウェアでは、40年代のデイドレスと肌着であるランジェリードレスのミックスや、バイアスカットとストレートカットと異なるカッティングを一着に取り入れたドレスなど、時代背景や用途の異なるもののミックスが目立っていた。メンズライクなアウターとチェック柄のマフラーを溶け合わせたコートも、「スプライシング」法の象徴と言える。
オートクチュールコレクションでは、コートとドレスがコンバインされたピースが展開。レイヤードしているかのように、ラペルの内側やウエスト下からドレスの一部分が見えている。しかし、アームの辺りまで到達すると、コート、ドレスどちらの面影のない総柄模様が姿を現し、レディ・トゥ・ウェアよりさらに複雑な「スプライシング」が行われているのが見て取れる。
メゾン マルジェラのスタイルを確立するものの一つに「脱構築(デコンストラクション)」の考えがある。ジョン・ガリアーノは、あえて始末しない刺繍糸を残すことで、このスピリットを表現した。
ショート丈のアウター。形や色、装飾などに共通点は少ないもの、どちらも長く伸びた赤い糸がポイントとなっている。登場位置はどちらもボタン周りや下襟のフラワーホール辺りが中心となり、髪の毛からヘアアクセサリーのように長い糸が伸びているのも一致している。
どちらのコレクションも「フェイスモチーフ」がアイコンだ。オートクチュールコレクションでは、シースル素材に刺繍で顔を描いたアウターが登場。大きく目を見開き、開いた口からは虹のようなリボンが流れている。
一方、レディ・トゥ・ウェアはマリリン・モンローをヒロインとした。彼女の姿は、拡大プリントして引き延ばされ、色っぽい唇や妖艶な眼差しも小さなドット柄に変化している。