エルメス(HERMÈS)の2019年春夏ウィメンズコレクションが、フランス・パリで発表された。会場はロンシャン競馬場。リニューアルオープンよりひと足早く、エルメスのショーで初披露。ブローニュの森の奥に広がる広大なスペースは、豊かな緑と澄んだ空気に包まれていた。
競馬場=馬、エルメスの原点といえる場所で行れたショーは、乗馬の世界に空と海の物語が溶け込んだもの。始まりは“もし水平(セーラー)が女性だったら?”という、ナデージュの可愛らしい空想で、“一人の女性が馬にのり地平線を走っていると海へとつながり、空と海の境界線がなくなって…”という一つのストーリーが彼女の中で生まれた。
「空と海と大地の境目をなくす」ために、彼女がとった方法は、競走馬が走る道に鏡をセットすること。ミラーにはパリの空が映し出され、緑の世界が青の世界へと変わる。流れる雲、(この世界観を感じとって訪れたであろう)空を飛ぶ海鳥。ちょうどその日の空は、積乱雲や飛行機雲がなく、薄い雲がふんわりと広がっていて、まさに海なのか空なのかわからないほどだった。
白砂がひかれたランウェイに、乗馬と航海の世界が一つになったピースが並ぶ。セーラー服風の襟とボートのロープを添えたレザーのドレス。ロープの結び目には、乗馬の世界を象徴するアイレットが施されている。ニットのボディスーツは、水着を着ているかのようなトロンプルイユデザイン。ロープが絡まった舵をイメージしたボタンを並べたパンツスーツ。エルメスでは珍しい、ブラトップの起用も目立った。
ユーモアと新しさに富んでいるようであるが、ベースにあるのはメゾンのアイデンティティ。春夏コレクションであるのにレザーが多用され、リボンレザーを格子状に組み合わせたドレスやミニスカート、メッシュ地のように細かいパンチングをあしらったレザースカート、革職人のエプロンから着想したワンピースやトップスが揃っている。
モデルたちはキャットウォークの後、そのままランウェイに立ち、総勢47ルックの新作ピースが一堂に並んだ。メゾンの伝統を象徴するもの、現代に合わせて進化するもの。その融合された世界観は、エルメスの歴史を愛し、未来へ繋ぐことを目標にクリエーションを続ける、ナデージュの謙虚な姿勢そのものを見ているようだった。