プラダ(PRADA)の2024年春夏メンズコレクションが、2023年6月18日(日)、イタリア・ミラノにて発表された。
この記事のタイトルに付した「無機的生」とは、一般には矛盾する言い回しだと思う。つまり、「生」は有機的なものではなかろうか。それでもこの逆説をあえて用いたのは、プラダの削ぎ落とされた造形が、身体の輪郭を、その生命感を、厳しく、しかし軽快になぞっているように思われるためだ。
そのためにまず挙げるべきは、テーラリングだ。ショルダーは強靭なフォルムを描き、ウエストは引き締める。スリーブは長く設定し、垂直下方へと向かって直線のラインをなす。袖先は幾分の重さを湛える。ここからは、たとえば19世紀の一時期のドレスにも見られた、アワーグラス型のシルエットが彷彿とされる。
しかし、ここでスーツとして提案されるのは、ボトムスにハーフパンツを合わせた対応であり、ジャケットをタックインできるほどに軽快に仕上げた素材感である。タックインをしていないルックも微かに見受けられるが、その丈感はスリーブとともに長く、やはり縦のラインが強調されている。翻ってタックインをしたセットアップにおいては、ショルダーは屈強、ボディとスリーブはその長さでもってすっと下方へと視線を誘い、いわば逆三角形の不安定な──西洋絵画の構図において、三角形は安定性を、しかし逆三角形は不安定生を示す──、しかしそれゆえに生のダイナミズムを示している。
この、生のダイナミズムは、装飾の面でも見受けられる。シャツを見てみよう。フロントには、花ばなをモチーフとした装飾が跋扈する。しかし、表情はその素材と呼応してマットであり、ミリタリーやアウトドア、ワークのテイストを彷彿とさせるウェアそれ自体の無機的、機能的な表情に従うものとなっている。また、ジャケットと同じくショルダーとスリーブの存在感を強調したシャツにおいては、花ばなの姿を刺繍でのせ、ラメ糸のきらめきやフリンジの動きでもって華やいだ表情をもたらした。
アウトドアやワークについて付言するならば、その要素のひとつとして、パッファーベストといったカジュアルなアイテムが展開されている。あるいは、上述の動的なシルエットを描くジャケットやシャツにおいては、デニム素材も用いることで、通常タフで身体との関係性、その呼応のエレガンスからは些か距離をもって捉えられるこの素材に、身体との関係性を取り結ぶことが試みられているように思われる。