ヴァレンティノ(Valentino)が2015-16年秋冬メンズコレクションを、パリ ファッション・ウィークにて発表した。
世界で多くの芸術ムーブメントが高まりをみせた、20世紀前半。そうした流れの中で、隆盛を極めたロシアのバレエ団「バレエ・リュス」を知っているだろうか。芸術プロデューサーを務めていたディアギレフは、ピカソからバクストまで名だたるアーティストを発掘し、束ねていくことで、独創的な舞台を築き上げた。そんな彼の活躍した時代こそが、今季のヴァレンティノのインスピレーション源。
ショーで最初に登場したのは、スマートなネイビースーツの上から、幾何学的な切り替えのコートを羽織ったコーディネート。そう、コレクションの鍵を握るひとつの要素こそ、このコートに見られるような幾何学模様だ。モダニズムやキュビスムなど、現代アートを支えてきた直線のイメージは今回、オーストラリア人アーティスト、エスター・スチュアートの幾何学模様に重ねられ、コートだけでなくブルゾンやニット、はたまたバッグへと、形を変えながら落とし込まれていく。配色は多様ながら、色合いはやや暗めのトーンが中心。むやみやたらな主張はないものの、確かなウィットをにじませる。
続く中盤は、大きなジップとポケットがポイントのアウターをメインに。そして終盤に差し掛かる頃、コレクションのあちこちには、ユニークなモチーフが顔を出し始める。ブルゾンのネイビーを飛び交う繊細なタッチで描かれた蝶や、ポップな宇宙の縮図、ジャケットのラペルに添えられた四葉のクローバー。そしてラストは「バレエ・リュス」の衣装を思わせる、ヴィンテージ風の華やかなテキスタイルで締めくくった。
今季のコレクション、シルエットはベーシックかつ数パターンに限定され、ほとんどのルックが白シャツにタイと、ある意味では単調だったかもしれない。しかしながらそれは、意匠を凝らした際立つデザインがあってこそ。足し引きの美学の結果なのだ。デザインコンシャスでも派手すぎず、カジュアルだけど上品で、ドレスシーンは肩肘張らず。それでいて、リュックやスニーカーなどトレンドを意識しているところもまた、単なるラグジュアリーで終わらない“洗練された”ワードローブを生み出す要素となっていた。