2015年3月6日(金)、ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)の2015-16年秋冬コレクションがパリで発表された。
残り香。山本耀司の言葉を借りて表現することになるが、ショーを終えた今もなお余韻が続く、そんなショーだった。モデルたちが1歩前へ進むと、ほんの少しだけ遅れて布地がついていく。布が流れるように揺れ動く、わずかな瞬間の美しさを体現しているようなシーズンだった。
音楽は何もなく、照明はほんのりと灯されている。そこに真っ黒な出で立ちに、ハットを召した1人のモデルが現れた。両手を胸下で組み、品のある姿で、ゆっくりと前へ進む。その時間が、観客に洋服の細かい部分まで丁寧に見せ、思考する余裕を与えてくれる。ステージ中央まで来ると装いがよくわかる。振袖を想起させるたっぷりとした袖の羽織もの。その下からは、ほんのりとスカートをみせている。身体の動きに合わせた生地の流れがバックスタイルから香り、優しさと気品を感じさせる。
はじめは、上着からスカートやパンツが見えていたが、少しずつ裾が長くなり、しまいには床に引きずるほどに。それに伴うように、音楽や照明も少しずつ加えられ、パズルを1ピースずつはめて1枚の絵を完成させるような、ゆったりとした時間軸でショーは進行していく。
基本は黒を基調に、ジャケットやスカート、パンツが展開し、ストールのような大きな布を取り入れている。そこに、フード付きのマントや靴下などで赤色を足してみたり、白いシャツやライラックのハイネックトップスを取り入れてみたりと、色を塗り足す。またベースとなる黒も、ウォーキングに合わせて表情の変化を楽しめるよう、光沢のある生地を採り入れたりと、四季のように移ろいゆく。
この穏やかな空間に突如して、驚きが投げ込まれた。傘のように広がる大きなドレス。透け感のある生地で覆われているが、中の骨組みが見えている。なんだこれは…と独り言ちてしまうほど。この演出は何度か繰り返され、床に水平なものや風車のようなもの、立体を2つ積み重ねたものなど、シルエットが変貌していく。と同時に、うねりやひねりを加え骨組みも変わっていくのだった。どこまで洋服という枠の中で、大きなものを創れるかと挑んでいるのではないかと疑ってしまう。
そんなはっとするようなパフォーマンスがありながらも、心が穏やかな気持ちになるのはなぜだろう。ピアノの音色やゆるりとしたウォーキングももちろんだが、やはり後ろ姿で魅せるドレープが心を掴んで離さないからではないだろうか。
ショー直後の山本耀司が語る、2015-16年秋冬コレクションについて
今季、一番最初に思い浮かんだことは何ですか。
古代のギリシャの人たちが、一枚の布を上手に羽織っていて。あれは、要するに着付けるということ。自分の身にあった着付け方って、人それぞれ違うんですよ。そのクリエーションってすごいな、俺にできるかなってところから始めました。
今季は特にバックスタイルの美しさが際立っていましたね。
女性の後ろ姿が大好きで、残り香と言うのでしょうか。女性が一番魅力的に見えると思います。
突如として現れた、大きなシルエットのドレス。作りかけにも見えますが、どういった経緯で創られたのですか。
一枚の布だとか、着物だとか、着付けなきゃいけないものに、欧米のものを採り入れるなら「工事中にしよう!」と思いました。東京に住んでいて、ストリートを歩いていると、工事中のビルは美しいなと感じるのです。要するに、未完成であるという一つの美学ですね。
会場となった、ジョルジュ・ポンピドゥー国立美術文化センターは、電気や水道の配管、階段やエスカレーターがむき出しになっている。出来た当初は、賛否両論な意見があり、未完成のものと評されたこともあったそう。そんな施設と、今季の印象的なルックはリンクする部分がある。また様々な波を乗り越えて、現在は世界から賞賛されている山本自身と結びつく部分もありそうだ。
和のテイストも織り込まれているように感じられた、今季。着物から離れている若者に「着付けを知らなくていい、俺が羽織るだけのもの作ってあげるから。」とのコメントも残してくれた。自分の美学をずっと保持つづけながら、挑み続ける。そんな山本の力強さを感じたコレクションであった。