エトセンス(ETHOSENS)のタグには、ブランドのシンボルとして白い菱形が刺繍されている。そして2015-16年秋冬コレクションのテーマとなった「white rhombus」もまた、“白い菱形”を意味する言葉だ。ブランドのアイデンティティとはいったい何だろう。ブランドスタートから8年が経ち、改めて発したデザイナー橋本の問いが、今季のテーマには重ねられている。
問いだけで終わるのではなく、ひとつの答えにたどり着いたことから、コレクションは出来上がっていった。答えのヒントとなったのは“線”だ。一般に、曲線は柔らかさを持ち、一方で直線は無機的な印象を与えることが多い。しかしエトセンスのアイデンティティとは、このどちらでもない“柔らかな直線”だったという。言い換えるなら、直線的なカッティングやシルエットで、柔らかなムードを作り出すこと。
コレクションを見渡してみると、ゆったりとしたシルエットが目立つ。そしてそれが、まっすぐに引かれたパターンの結果だと気づくのに、そう時間はかからないだろう。コートにジャケット、シャツ、パンツ。よく見ると、そのどれもが裾へと一直線に伸びるラインを描いている。しかしながらそれは、身体にまとわれた瞬間にはらり、ドレープ感や落ち感が現れることで、柔らかなムードへと表情を変えるのだ。それだけではない。細番手のウールを用いてさらなる柔らかさを加えたり、逆にパリっとしたタキシード素材でギャップを持たせたりと、素材へのアプローチが多様であることも、コレクションに心地よい違和感を生んでいる。
そしてブランドが得意としている、ギミックを効かせたデザインも健在だった。トップスに施されたのは、菱形を傾けた形、つまり正方形で形作られた編み込み。その編み込みはグラフィック化され、シャツにも切り替えとして落とし込まれる。さらには、長さ・太さの異なる2本をドッキングさせたパンツも登場するなど、シンプルな中にもユーモアを感じさせた。
モダンで直線的なデザイン性と、中性的でソフトなムード。これまであまり注目されてこなかった隙間、つまりこの2つの隙間を、エトセンスは確かに埋めているような気がする。ミニマルなデザインにこだわりつつ、独自の存在感を放っていたのもまた、これが理由なのだろう。今回コレクションを通じて探し求めた、ブランドの輪郭。その答えが“柔らかな直線”だったのだとしたら、こんなに優しいレトリックはない。