コーチ(COACH)が2016年秋メンズコレクションを発表した。
1941年、ニューヨーク・マンハッタンで創業したコーチ。その原点に立ち返るかのように、今シーズン彼らがインスピレーションを得たのは、アメリカ東海岸におけるかつての日常だった。労働者階級の作業着、70年代のNYヒップホップ、東海岸出身ミュージシャンのブルース・スプリングスティーン……そうしたアンダーグラウンドな世界をテーマにしつつ、そこに確かに挿していた光、すなわちヒーローの影を見ようとした。
こうしたコンセプトもあり、コレクションに派手さがあるかというと、必ずしもそうとは言い難い。カラーパレットはブラウン、ブラックといったダークトーンが基調。そこにレッド、グリーン、イエローが時折差し込まれる。もちろん個別にルックを見ていくと、鮮やかで目立つ発色のアイテムもあるけれど、トレンドだけを意識した分かりやすいデザインでないことは確かだ。
ただし、目を凝らして見るだけで、そうした一見武骨にすら映るワードローブは、東海岸のカルチャーが反映され、精緻な計算に基づくものだったということがわかるだろう。例えばファーストルックのハットや大きすぎるファーコートは、ヒップホップスターが好んで身につけた特有のスタイルであるし、ハイカットのスニーカーも同じくそうだ。労働者のユニフォームでもあったデニムは、決してカジュアルになりすぎないよう、スリムなシルエットを採用し、品格をキープ。ヴィンテージなレザーを使用したライダースジャケットはロックスターのユニフォームだが、コレクションのムードに合うように、現代的でエッジィな印象を取り払ったレギュラーなサイズ感で仕上げていた。
アイコニックなデザインというのも、今季を象徴するキーワードだろう。ニットやハットのフロント、ダウンコートの胸部分、トートバッグにまで施されたのは、恐竜やスペースシャトルのモチーフ。少年なら誰もが抱いたような、アメリカンドリームを具現化したデザインは、かつてアメリカにあった希望に満ちた雰囲気を、ポップな形で蘇らせていた。