ラッド ミュージシャン(LAD MUSICIAN)は、2020年春夏メンズコレクションを発表した。
“TRANSFIGURES THE GUITAR SOUNDS”をテーマに掲げた今シーズン。着想源となるのは、ノイズ作家によるワード「ギターの音を認識できない要素に変換する」や、ザ・キュアー(THE CURE)の楽曲「LAST DAY OF SUMMER」、音楽批評家・間章(あいだあきら)による「歪み奇形し、ずらしながら固定させようとするものからの解放を目指す」という言葉、ニューウェーブ、パンクなど。衣服を通して、現存しているものから認識できない未知の要素への変換可能性や、既成概念からの離脱を表現した。
象徴的なのは、陶芸家のハンス・コパーの作業着からヒントを得て作られた、前後を逆にしても着ることのできるドレスシャツやコーチジャケット、パーカーだ。ロングブラウスは、前後を逆に着ると祭服のようなワンピースに。パーカーはフードを前にして着ると、ゆったりとした襟のルーズネックスウェットになる。前後という既定の概念を反転させてもなおスタイルとして成立させることで、テーマにも共通する“変化の可能性”を示唆した。
ノイジーな花柄は、サイ・トゥオンブリーの作品をイメージしたグラフィック。2つの花の絵を重ねて歪ませぼかし、アーティスティックに仕上げている。赤やピンク、紫、青といった鮮やかな色彩が揺らぐことで花の輪郭がぼやけて見え、浮遊感のある世界観を描き出している。ブラックのテーラードジャケットやパンツに載せられたプリントは残像のように見えるのに対し、ホワイトのブラウスを飾る花々は躍動するタッチを思わせるペイントアートのようだ。
死神をモチーフにしたクロスの模様も絵画的。形や大きさがまばらなクロスを連ねるようにして描いたオーバーサイズのテーラードジャケットやロングシャツは、布地の動きに伴って柄が揺れ動き、まるで意思を持っているかのようだ。ダン・コーレンの作品集 “Disappearing Act”から着想された手錠とチェーンのプリントから見えてくるのは、静けさと金属音のコントラスト。相反する要素を共存させることによって、緊張感をも漂わせている。
グラフィックもさることながら、ジャケットのバリエーションも注目したいポイント。あえて左右で異なるデザインに仕立てたジャケットや、ライダース風のテーラードジャケット、シド・ヴィシャスが着用していたダブルブレストジャケットなど、テーラードジャケットという“型”にどこかひねりを加えてひずませているのがわかる。その他、リフレクターと生地の色を揃えたMA-1ジャケットや、花柄のリバーシブルブルゾンなども揃える。