ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)は、2020年9月10日木に開業を控える新たな“首都の玄関口”「東京国際クルーズターミナル」で2021年春夏メンズ・コレクションを発表した。
ヴァージル・アブローがメンズ アーティスティック・ディレクターに着任して以来初となる日本でのメンズファッションショー。それは、ヴァージルが描いた壮大なストーリーにおけるひとつのチャプターであり、ルイ・ヴィトンが創業当時からルーツを新解釈した、アナログとデジタルが融合する旅の目的地でもあった。
パリを起点に発信されたデジタルアニメーション配信、中国・上海でのランウェイショー、そして日本でのランウェイショーへ。未曾有の環境下において、ファッション界でも新たな挑戦が求められる中、ファッション史の大きな転換期をつくるビッグプロジェクトとも言える。なお、日本でのランウェイは、上海で発表されたルックに加えて、NIGOとのコラボレーションによる「LVスクエアード コレクション」や新作を含め約120体が披露された。
旅に欠かせない存在となったのが「ズームとその仲間たち」。彼らは、船にこっそり乗り込んだカラフルなアニメーションキャラクターで、ショーの中でも幾度となく登場する。ある時は、ジャケットの胸元でブローチのように、またある時は、ラグジュアリーなファーストールのように。“仲間たち”が所せましとあしらわれた1着は、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのようだ。ルイ・ヴィトンのアイコニックなトランクやバッグにもその姿が見て取れる。
そして彼らの存在は、ヴァージルが継続的に掲げているテーマ「少年時代」を抱合する。子供のような純粋なフィルターで物事を捉えることの大切さは、クリエーションのみならず日常において感じてきたことであり、訴えたかったメッセージのひとつなのだろう。
今季は、自身のルーツへの想いも強い。ガーナ出身の両親のもとで育った第2世のアフリカ系アメリカ人であるヴァージルは、両親の出身地の文化を反映したカラフルな幼少期を過ごしたという。メゾンのアイコニックなモノグラム・パターンやダミエ・パターンは、レッド、イエロー、グリーンといったプリミティブな色彩と、レゲエやラスタを連想させるディテールとともに、厚い肩パット入りのクラシックシーツやボックスシルエットのコートを、ユーモアで溢れさせる。
ファブリックは、アフリカの伝統的なものを着想にしたものも多く、例えば、ガーナ・アシャンティ王国のブロック状の染織“ケンテクロス”もそのひとつ。その美しい模様は、歪みの生じたダミエ・パターンと大きく共鳴しあっているかのようだ。
もうひとつ、アップサイクルを取り入れたルックを提案していることも重要な点。これは、余剰在庫を使用するなどの物理的エコな取り組みとしてだけでなく、ファッションに見られる“流行りと廃り”という概念を超越し、自身たちのアイディアも決して使い捨てにせず価値観を繋ぐことも目的としている。
新たな素材で作ったルックに加えて、リサイクル素材を使用したもの、そして前シーズンはじめ過去のコレクションを想起させるものルックも現れる。前述した“仲間たち”の中、2005年のマーク・ジェイコブスが手掛けたコレクションのアーカイブから着想したくまのぬいぐるみがファーストルックとともに登場したことも印象深い。
2021年春夏メンズ・コレクションでの旅を描く上、その旅の目的地で出会う人々が、今季のワードローブを着こなせるようにと、モデルのキャスティングにも大きくこだわった。その1人として、日本のランウェイには俳優の斎藤工が登場している。また、ランウェイでの発表の際は、大きなコンテナにミュージシャンたちの映像が流されたが、演出は映画監督の三池崇史とナイジェリア生まれの写真家・映画監督のカレブ・フェミらによって作成されたものだ。