タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)は、2021年春夏コレクションをフィルム形式にて発表した。
デザイナーの宮下貴裕が創作するのは“誰でもない存在”に向けた服。そこにある服は誰のためでもないからこそ、誰もが袖を通すことができる。服を前にして、性差や肌の色、年齢の違いは無関係。誰もが等しく、目の前にある服を着ることができる。
発表されたフィルムに映るのは、暗く退廃的なディストピア。逃げるようにして向こう側に走り去っていくモデルに重なるようにして、こちら側に堂々と歩いてくるモデルを投影した。逃避しているかのようにも、適応し馴染んでいるかのようにも見える世界観は、この世界の抽象性や多面性を示唆。例えば、この世界はある角度から見ればディストピアであるかもしれないし、実はそうではないかもしれない、ということを暗に示している。
メスを入れて書物を切り取り、空いたスペースにコラージュしたり、糸を通してページを縫合したりするイメージは、今季のクリエーションのプロセスをダイレクトに表現している。身の回りにあるガーメントやハンガーカバーにファスナーを配してそのまま服にしたり、リベットを打ち込んだり、パッチやネームをテープで貼り付けたりと、従来のミシンを使った縫製に頼らない服の構築の仕方を提示した。
画材のキャンバスを用いて仕立てたタフなベストにも、リベットがいくつも打ち込まれている。骨組みを思わせるディテールや、裏側の強度が必要な部分に配されたテープが建築を連想させる。ウエストで固定された前半分のみのパンツは、構造を剥き出しにしつつ身体の一部を覆い、ファッションや服の概念を問うような前衛性を見せている。
ルーチョ・フォンタナの空間主義からインスパイアされた、大胆に切り込みを入れたデザインも印象的だ。ガーメントやフーディ、ジャケットのバックやフロントにはテープを貼り、さらに生地を横断するかのようにざっくりとスリットを配した。スリットによってぽっかりと開いた空間の近くには、“世の中は素晴らしい、戦う価値がある”を意味するヘミングウェイの言葉がコラージュされている。
部屋にあるソファの生地をそのまままとう、というコンセプトのもと、アルフレックス(arflex)のソファ「マレンコ」とコラボレーションしたガーメント型のジャケットやシャツも登場。「マレンコ」と同様にスタンプが配されており、名の無い人物を指す時の「John Doe(s)/Jane Doe(s)」の文字が並ぶ。ウェアに家具の生地が用いられることで、服と建築、空間といった概念が連動し境界線を行き来しているかの感覚を覚える。
尚、ウェアと同じくアルフレックス「マレンコ」の生地を用いたスイコック(SUICOKE)とのコラボレーションサンダルをはじめ、フット ザ コーチャー(FOOT THE COACHER)とコラボレーションしたブーツ、キッズ ラブ ゲイト(KIDS LOVE GAITE)とタッグを組んだシューズ、マインデニム(MINEDENIM)のデニムパンツ、オールドパーク(OLD PARK)のリメイクデニム、ウーフォス(OOFOS)とのサンダルといったアイテムが登場している。