コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)の2022年春夏コレクションが、2021年7月12日(月)、東京・南青山にて発表された。
艶やかにして華麗、あるいはひっそり可憐に咲く、“花”。その「美しさ」ゆえだろう、花は往々にして華やぎや幸福な感情と結びつけれられる。しかし、花を見て慰められ、やりきれぬ思いをその姿に仮託するように、花とは哀しみのなかでこそ見る者へと情動的に訴えかける。そして、盛りを迎えるとたちどころに散り去る桜のように、花自身もまた極めつきの儚さを孕んでいる。今季のコム・デ・ギャルソン オム プリュスは「花の存在」をテーマに、脆さにおいてこそ現れる花の姿を示してみせる。
テーマ中の“花”の言葉に見るように、テーラードアイテムを中心としたウェアの数々にのせられるのは、花々の姿である。バックに華やかなプリーツを施したジャケットや、ロングシャツ、裾にかけて大きく膨らみ、さながらドレスのような面立ちのトレンチコートなど、赤やピンク、黄色など、とりどりの色彩で花柄がのせられている。また、ブラックのテーラードジャケットやレギンスなどには、艶やかに薔薇の刺繍を施した。
しかし、主眼となるのは、いわば花の華麗さの屈性である。たとえば、テーラードジャケットやブルゾン、コートなどには、上下で素材を大胆に切り替えを施して。ミリタリーを感じさせるカーキのファブリック、あるいは冷え冷えとしたモノトーンの花模様に屈強なレザーブルゾンを組み合わせるなど、花の優美さに、それとはまったく異質の素材感を衝突させている。
また、荒々しい切りっぱなしの裂け目も、花の優美さの背後に忍び寄る儚さをほのめかす。テーラードジャケットは、フロントを波状にカット。ジャケットが持つシャープな印象を、より流動的な表情に変化させた。また、着丈を長く取ったジャケットやコートなどの裾には、大胆なスリットを幾筋と施し、歩みに合わせてダイナミックに揺れる躍動感を演出。さらに、チェックジャケットのスリーブに入れた裂け目や、バックに施した髑髏状のカットアウトも、なるほどそこから花柄が覗く点では装飾的だが、むしろその布地の空白地帯が儚さをこそ感じさせる。
花の脆さを示すもうひとつの例が、アメリカのコラージュアーティスト、ベデルギウス(BEDELGEUSE)とのコラボレーションだ。ベデルギウスは、人間の骨や内臓を草花で繋ぎ合わせた作品を手がけており、そうした並置には美しさが孕みもつ脆さや儚さが映しだされている。ロングシャツや裾にファーをあしらったロングジャケットには、バックに花と内臓、髑髏などを組みわせたグラフィックをヴィヴィッドにプリント。その儚げなモチーフが、突き抜けるようなホワイトの地と清々しいまでのコントラストを織りなしてやまない。
足元を固めるシューズには、華麗に花柄をのせたドレスシューズや、ジョージコックス(GEORGE COX)とのコラボレーションによる重厚なラバーソールシューズなどが顔を見せる。その一方、ナイキ(NIKE)とのコラボレーション「エア マックス」スニーカーは、そのシンプルで流麗なフォルムでもって、花園にすうっと抜ける一陣の風のように、ある種爽やかな心地よさを吹き込んでいる。