コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)の2025年秋冬コレクションが、2025年1月24日(金)、フランスのパリにて発表された。
人間が「進歩」を信じた、近代という時代。大雑把に言えば、科学や技術は高度に発達した。文化や芸術も、新たな局面を迎えた。しかしそこで、人間は理性のもとに「進歩」したのだろうか?──「TO HELL WITH WAR」をテーマとした今季のコム デ ギャルソン・オム プリュスは、ミリタリーウェアとテーラリングを解体することで、理性の「進歩」を問い直し、そこにありえる希望の形を探っているように思われる。
コレクションの軸となるのが、ナポレオンジャケットやフィールドジャケット、カーゴパンツといった歴史的な軍服の数々、そしてフォーマルの代表格であるテーラリング。コム デ ギャルソン・オム プリュスは、それらを断片へ、幾つもの断片へと解体し、それら諸断片を繋ぎあわせることで、再び衣服として立ち上がらせているのだ。
思い起こせば、たとえばテーラリングとは、すぐれた理性の営みを体現する衣服であるといえる。19世紀半ば、つまり近代のヨーロッパでその原型が固まったとされるテーラリングは、装飾性を削ぎ落とし、色調を抑制することで、純粋な造形を確固たる構築性で追求するものであった。このように、ドレスに見られるような華やぎを捨象し、身体の理想的なフォルムを具現化する点において、テーラリングはすぐれて理性的な造形である。
このように理性の営みを反映するテーラリング、あるいは軍服が、今季のベースとなっている。セットインショルダーで身体の輪郭を仕立てた、シングルブレストやダブルブレスト、スタンドカラーのテーラードジャケット。燕尾服を彷彿とさせるテールで仕上げたフロック。あるいは、ナポレオンジャケットを彷彿とさせるフロントストラップや、肩章を彷彿とさせるショルダーパーツをあしらったジャケットも見出すことができる。
これらの衣服はしかし、裂け目が施されては断片へと解体され、再びモンタージュされることを経て、1着の衣服として構築される。サファリジャケットはショート丈にカットオフし、その下には艶かしい質感のファブリックを組み合わせる。アシンメトリックに解体し、幾分斜めに歪めたうえで左右の一方だけを残し、もう一方にテーラードジャケットの断片を合わせる。オープンカラーのジャケットの上に異なるジャケットをレイヤリングする。色とりどりのファブリックをパッチワークすることで、1着のジャケットを紡ぎあげる。あるいはボトムスに目を向ければ、カーゴパンツなどを解体し、ポケットといったディテールを残しつつもシルエットを消し去り、大きく広がるスカートへと仕立て直しているのだ。
色彩もまた、ミリタリーウェアを基盤としつつ、その配色を再構築している。一方には、カーキやブラウンをはじめ、ミリタリーウェアを特徴付けるアースカラーが数多く見られる。他方で、赤、青、黄、あるいは緑と、ヴィヴィッドなファブリックの断片は、パッチワークとして1着の衣服を織りなす。ふと、ミリタリーウェアには、もとは鮮やかで力強い色彩が用いられていたものの、20世紀初頭、アースカラーへと変化したのであった。コム デ ギャルソン・オム プリュスはこうした色彩の歩みに目を向けつつ、それらを断片化し、互いに異なる色彩を激しいせめぎ合いの裡に置いているといえよう。
形と色の断片──20世紀前半を生きた批評家ヴァルター・ベンヤミンは、画家パウル・クレーが描いた「新しい天使」という天使の姿に寄せた言葉を残している。翼を広げ、大きく見開いた眼を過去という廃墟に向ける、その天使。彼は、「進歩」という強風に翼をはらまれ、抗いがたく押し流される。けれども天使は、どうにか廃墟に留まり、破壊されたものを寄せあつめて組みたてようとする──ベンヤミンに倣うのならば、砕かれた「断片」、それら諸断片が星座のように織りなす布置のなかに、かすかな希望を見てとってもよいのかもしれない。