ディオール(DIOR)の2025年冬コレクションが、2025年1月24日(金)、フランスのパリにて発表された。
今季、ディオールのメンズ クリエイティブ ディレクター、キム・ジョーンズが目を向けたのが、メゾン創業者のムッシュ ディオール、そしてヨーロッパにおけるメンズウェアの歩みであった。なかでも、ムッシュ ディオールが1954年に発表した「Hライン」を起点としつつ、華麗さから簡潔さへと展開してきたメンズウェアの要素を、研ぎ澄まされた佇まいへと昇華させている。
ムッシュ ディオールは1947年、優雅に曲線を描く「バー」スーツに代表される、初のコレクションを発表した。そのテーマのひとつは、花冠を意味する「コロールライン」であり、それは優雅に開く1輪の花とも形容できる「バー」スーツと響きあうものであった。以後、ムッシュ ディオールは、チューリップライン、Aライン、Yラインなど、シルエットを特徴付ける「ライン」を打ち出し、モードを牽引していったのであった。
こうしたなか、1954年秋冬オートクチュールコレクションで発表されたのが、「Hライン」である。女性の曲線的なシルエットに呼応するかのようなコロールラインとは対照的に、Hラインはアルファベットの「H」を思わせるストレートなシルエットであり、ベルトや切り替えによってウエストのラインを示すものであった。キム・ジョーンズは、Hラインの角張った雰囲気にメンズウェアとの親和性を見てとり、今季のコレクションの起点としたのだ。
Hラインを彷彿とさせる直線的なラインは、たとえばテーラリングに見てとることができる。スタンドカラージャケットは、シャープなセットインショルダーで仕上げつつ、サイドには大胆なタック、ウエストには切り替えを施すことで、立体感あるシルエットを構築。ダブルのショールカラー風ジャケットや、左右非対称にジャケットをレイヤリングしたチェスターコートなど、流麗な直線的ラインが引き立つ仕立てとなっている。
ムッシュ ディオールのHラインを起点としつつ、コレクション全体は、貴族的な華麗さから、現代的な簡潔さへと向かう、男性服の歩みに触発され、その豊かさをシルエット、素材、ディテールを通して表現している。かつて男性服は、その人物の富や権力を示すべく、豊かなボリュームと華やかな装飾で仕上げられた。その華やぎは、大胆なタックをとったスカート、柔らかなラインで身体を包むローブなどに見る量感や、空気を孕んで揺らめくブラウスに用いたサテンの光沢、テーラードジャケットに散りばめられた、雨粒のようなガラスビーズのきらめきに現れている。
男性服は、しかし、近代を境目にその色彩と装飾性を捨て去り、機能的で、身体のフォルムを明確に構築する方向へと変化したといえる。今季のディオールでも、その簡潔な佇まいを随所に見てとれる。ウエストを流麗にシェイプさせたダブルブレストジャケットはその筆頭であるし、オペラコート、光沢のあるファブリックや艶やかなレザー、ムートンなどを用いたブルゾンは、リラクシングかつ明確なラインで仕上げた。
華麗さと簡潔さを架橋する今季のディオールでは、メンズクチュールも登場。とりわけ、ボリューム感あふれるペールピンクのローブにおいては、緻密にして華やかな刺繍を濃密に施している。この刺繍は、ムッシュ ディオールが1948年春夏オートクチュールコレクションで発表したものに着想したもの。厳格なシルエットばかりでなく、精緻なディテールにいたるまで、ムッシュ ディオールへの思いを紡ぎこんている。