ケンゾー(KENZO)が2023-24年秋冬コレクションを発表した。
パリ8区にあるコンサートホール「サル・プレイエル」では、日本人カルテットによるビートルズの調べの中、60年代のモッズやロッカーズに代表されるストリートカルチャーや、メゾンのアーカイブに新たな解釈を加えて融合したリワークアイテムが登場。ヘリテージスタイルへのリスペクトと、NIGOが描く新たな表現の可能性に満ちたワードローブが展開された。
今季のコレクションを通じて見られたのは、アーティスティックディレクターのNIGOに深く影響を及ぼしたイギリスとアメリカ、そして日本のカルチャーの相互作用への探求だ。
たとえば、袴風のパンツと1960年代のブリティッシュモッズスタイルのシルエットで仕立てた襟無しのチュニックジャケットを組み合わせたルックはこうした折衷表現の流れを汲みつつも、80年代のケンゾーアーカイブや日本のストリートカルチャーを反映。トラッドなムードの中に目新しさを忍ばせた、自由なテーラードスタイルとして提案されている。
ケンゾー創設者・高田賢三の持つレガシーへのオマージュは、ディティールやアーカイブのリワークとして随所に表現。1980年代、90年代に使用されたKENZOジーンズのウォッシュ加工を再現したデニムと、アーカイブのレザージャケットに着想を得たパッチワークシャーリングスエードピースを組み合わせたルックはその好例だ。
一方でNIGOによるカルチャーミックスのスタイルは、新たな色味となってケンゾーの未来を見据える。たとえばアーカイブで多用されていた日本伝統のキルティング技術である“刺子”を使用したアイテムは今季、ナイロンやデニム、ニットウェアなどに用いられるとともに、ジャカードやフィルクーペといった技法、種類豊富なベルベット生地を駆使した表情豊かなファブリックと組み合わされている。
こうしたアプローチを可能にするのが、2022年秋冬コレクションより継続して行われてきたヘリテージへの理解と再構築という過程を通じて研ぎ澄まされた、NIGOの優れたバランス感覚だ。
アーカイブモチーフのダズルストライプやパンク調のアンダートーン、さらに日本の金魚モチーフなど、多様なパターンやプリントにもNIGOの時代と国境を越えたミックススタイルによる表現が見て取れる。トラッドアイテムには、NIGOのキャリアやルーツに深い影響を及ぼしてきたヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)を彷彿とさせるストライプやチェック柄も散見された。
NIGOの現在と過去によって構築されたデザイン哲学が生み出すハイブリッドスタイルは、バッグや帽子、スニーカーなどのアイテムにも強く反映。
1990年代後半のスケートボードカルチャーに見られるスタイルから着想を得た幅広のスニーカーや、英国の鹿撃ち帽風のキャップ、さらに剣道の練習で使用されるような80年代のスポーツバックに新たな解釈を加えた大型のキットバッグなどの小物はプレイフルであると同時に、NIGOが示す世界観の独自性を一層印象付ける象徴的な存在となっている。