ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)が2014年2月28日(金)、2014-15年秋冬コレクションをパリファッションウィークで発表した。会場にはモデルの栗原類の姿も。
シャイヨー宮国立劇場で行われたランウェイショー。ビッグシルエットのダウンジャケットや大きく円錐を描くドレスなど、全身黒の装いでショーは幕を開ける。ヨウジヤマモトは、今季も私たちの予想を見事に裏切った。
「僕は長い間“大きな服”を作り続けたデザイナーと言われているのですが、今回はその極限、どこまでデカくできるかなぁというところを挑戦したんです」そう語る山本が、今季思い描いたのは「fairy tale(おとぎ話)」の世界だ。可愛い人形たちが出てくるような童話やおとぎ話にある“怖さ”。今シーズンは、ボリューム感たっぷりのフォルムとともに、若き現代美術家・笹田靖人の絵画を大胆に取り入れた服で、私たちを鮮烈な空想の世界へといざなう。
繊細なタッチで大きく青やピンクの百合が描かれたアウターには、美しい花と対照的な鎖も全面に描かれ、冷酷さを感じさせる。これでもかと言うほど膨らみのある服を上下で合わせた装いは、モデルの身体の2倍以上の大きさを持つように見えた。
また生成り色や黒のニットスタイルも数ルック展開。立体的に編まれたニットのパンツ、毛糸を長く垂らしたキャップは、すでに使い古されたいるかのようにほつれた糸がノーマディック(旅人的)な雰囲気を感じさせる。カラフルなアップリケを施したブラックのテーラードルックのほか、葉が覆い茂るような装飾を片側にだけ配したカーキのジャケットやスカートなども披露した。
ラストには、歯車や蝶々、そして雷様といった様々な絵が描かれたルックが続々と登場。ひとつひとつのモチーフに関連性はなく、記憶が交錯する夢の世界をそのまま服に落とし込んでいるようだ。
■山本耀司が語る2014‐15年秋冬コレクション
これまでにないボリュームのある服の数々が登場したコレクション。怖ささえを感じさせる笹田靖人のファンタジーな絵が描かれた服は、その繊細で強烈な世界観が目に焼き付くほど。
-今季のコレクション、最も重要視しようと思ったことは何でしょうか。
山本:僕は長い間“大きな服”を作り続けたデザイナーと言われているのですが、今回はその極限、どこまでデカくできるかなぁというところを挑戦したんです。その理由は“fairy tale(おとぎ話)”の世界をやってみたいと思ったからです。そしたら「お人形さん」だなぁって。お人形さんて、大きい服を着て可愛いでしょう?
ところが、お人形さんとか童話の世界って“怖さ”が含まれているんです。要するに“狂気”というものを。
-美術家・笹田靖人さんの絵が登場したことについて、教えてください。
山本:偶然、若い絵描き(笹田)に出会いました。大人はね、子どもっぽい絵を描くのはすごく難しいんですよ。汚れちゃってて子供の絵というのは描けないんですよ。ところが彼は描けるので「子供っぽい絵描いて」とお願いしました。ピュアな絵っていうのを描ける大人が見つかったので……それが楽しかったです。
ドラマティックで緊迫感のあるBGMとともにともに始まった今季のコレクションは、次第に東洋風のメロディに変わり、ノーマディックな装いを見せた瞬間もあった。
-少し東洋の要素も感じられました。
山本:僕は、意識して東洋をやったことはないんです。1回だけ着物のコレクションをやったことがあるんですけど、それは僕のタブーを破ったもので。僕が真剣に作ると、やっぱりどこかで日本的になるみたいです。それは僕の中に日本人の血が流れているからだと思います。
鎖が巻き付いた百合の花、十字架、飛び散るようにカラフルなペイント……。衝撃的な絵が描かれた服は、様々な情報が行き交う現代社会の様子をも思わせた。
-何か、社会的なメッセージが込められているように感じたのですが。
山本:社会的って言ったら大袈裟ですが、パリ・コレクションも含め、ファッションがバッグとかジュエリーを売るためのプロモーションになってしまっていて、“服”で勝負するというデザイナーがほとんどいなくなっているんですよ。“服”で何かものを言えるっていうデザイナーがすごく減っているので。その若手たちに対するメッセージも含まれています。服って人を感動させられるよっていうのを、是非見せたいと思って。
ファッションショーは、純粋にクリエーションの披露の場であるべきという山本の想いが込められた今季のコレクション。笹田の絵を自身の服に採り入れたことについて「楽しかった」と話すとき、まるで少年のような瞳で微笑む姿が印象的だった。