マリアーノ(MAGLIANO)の2024年春夏コレクションが、2023年6月18日(日)、イタリア・ミラノにて発表された。
アメリカの哲学者チャールズ・サンダース・パースはその記号学おいて、記号の様態を3種類に分類している。すなわち、対象の似像としての「イコン」、ある行為や動作の痕跡を指し示す「インデックス」、そして共同体に共有されるコードを介して意味を示す「シンボル」である。そして今季のマリアーノは、これらのうち2番目の「インデックス」としての衣服を、すぐれて志向するものであるように思われる。
「インデックス」についてもう幾分付け加えるならば、それはたとえば鉛筆を紙の上で動かせば、その軌跡に沿って線が残るというものである。ある動作の痕跡とはこの謂いであり、いわば動作を直接的・物理的に指し示すものだといえる。
今季のマリアーノが「インデックス」としての衣服の様態を示すのは、それは素材に加えた手の作用を、いわば経年変化を帯びたかのようなノスタルジックな佇まいとして示すからだ。テーラードジャケットはバックを解体される。ベロアのパンツは、艶かしくきらめきを放ちつつもある種擦れたような風合いを帯びる。あるいは、イヴニングドレスを彷彿とされるボディスはスカートから切り離され、スーツのトラウザーと組み合わせられる。
緩く編まれたニットは、身体に寄り添って物憂げに落ちる。テーラードジャケットやカーディガンなど、フォーマル、カジュアルの種々のウェアは、このように柔なな素材でもって緩やかなシルエットに仕上げられ、気だるい余韻を残す。あるいは、アウターの下に重ねたシャツはロングな丈感に設定するなど、レイヤリングによって垂直方向下向きのベクトルをきわ立てることに寄与している。
「インデックス」としての衣服を語ったとき、それは過去を志向するものであるように思われるが、マリアーノにおいては必ずしもその限りではない。過去の行為が生んだ痕跡は、時の試練を耐え、未来へと繋がってゆく。シェイクスピアは、君はこの詩によって永遠に生きると謳わなかったか。マリアーノはこのように、時間の痕跡を刻印した衣服を、祈りのごとく未来に向けて投げ放っている。