キディル(KIDILL)の2024年春夏コレクションが、2023年6月20日(火)、フランス・パリにて発表された。
「HERESIE CHILDREN」(=異端児たち)をテーマに掲げた、今季のキディル。その根幹にあるのはパンク、かつてのパンクの少年たちのエッジの効いた、しかし周りの大人からは良い目で見られなかっただろうその精神だ。それは、正統的な価値観に反抗する「異端」の姿勢であるといえる。そしてそのなかで今季、目を向けたのが、やはり西洋でかつて異端視された魔女をはじめととするモチーフであった。
「現代に生きている異端児って僕たちだと思うんですよね。こうやってパリに来て、この1週間にすべてをかけて、バコンと見せてやっているのもそうだし、売上を取るだけの服を作っているだけでもない。僕も、今日出てくれたモデルたちも、すごい個性的で、だいぶ異端だと思うんですよね」──こう語るキディルのデザイナー・末安弘明は、だから、魔女というイメージに、現代の異端児の姿を仮託する。
だから、コレクションはパンクの佇まいを響かせつつ、そこに魔女の、あるいはさまざまな異端のイメージの姿が、魑魅魍魎と跋扈する。オーバーサイズで下方へと気怠げに落ちるシルエットを基調に、ブルゾン、ニット、シャツ、ボンテージパンツ、あるいはドレスやスーツには、魔女や五芒星、蜘蛛の巣、骨、妖怪の姿が、自在に散りばめられている。
パッチワークや、異素材の切り替えも数多く見られる。複数の花柄をふんだんにパッチワークしたブルゾンやシャツ、パンツは、その代表的な例だ。また、ミリタリーブルゾンは、裾を毒々しい花柄のプリーツ素材で切り替え、物憂く揺れ動く。オーバーサイズのトレンチコートは、表裏を部分部分に反転させるかのように、チェック柄やキュプラ地を取り混ぜる。
末安はここに、魅力的に感じたファブリックをジーパンなどにパッチワークするパンクと、古びた衣類に布を当ててゆく日本の襤褸と、互いに通底するものを見てとっている。コレクションの随所に、日本の着物を彷彿とさせる要素が見られるのは、洋の東西を問わないこうした手法に誘われたものであるように思われる。
魅惑を感じたファブリックを、モチーフを、その魅惑の強烈さをそのままに服にのせてゆく。そこに介在する手作業。末安にとってこれは、その身振りを通して自らの存在を確かめるものであるようだ。今季はまた、パリを拠点に活動する日本人帽子デザイナーのブランド「ヒヅメ(HIZUME)」とのコラボレーションによるヘッドウェアも展開されている。自ら感じた魅惑を、そのままに魅惑として保つことが、もしかしたら「現代の異端児」たるべき条件なのかもしれない。