ヴェイン(VEIN)の2024年春夏コレクションが、2023年7月11日(火)、東京のガーデン 新木場ファクトリーにて発表された。テーマは「アウラ(AURA)」。
榎本光希がともにデザイナーを手がけるアタッチメント(ATTACHMENT)と、合同でショーを行なっていた2023年秋冬までとは変わって、初の単独のランウェイショーを行なったヴェイン。そこには、いずれもアートを着想源とすることが多い両ブランドを異なる見方で見せる、とくにショーを行うヴェインにおいては、今季のコンセプトとなった「事物の一回性」を色濃く示す、という考えがあったようだ。
今季のテーマ「アウラ」と聞いて想起するのは、複製技術の発達によって作品のコピーを量産することができる時代にあって、なおもオリジナルの作品が有する〈いま・ここ〉の一回性である。1回かぎりの時間と空間を提示するショーという形式は、その意味で「アウラ」と呼応するものである。
そもそも、既製服は産業的に量産される以上、複製的なものである──ショーで提示されるコレクションは、そのシーズンに生産される衣服のモデルになるとなる意味で、オリジナルと言うことができるかもしれないけれど──。そうした衣服に、いかにして〈いま・ここ〉の痕跡を残すか。それが今季のヴェインにあったように思われる。
したがって、ブルゾンやシャツ、パンツには、あたかも点々と溶かされたような不定形なホールを散りばめ、ボーラー刺繍を施す。スウェットパーカーは、経年変化を帯びたような風合いで、ダメージ加工を。あるいは、光沢のあるポリエステルのシャツやショートパンツなどには、自由に描きだされたドローイングをのせて。気の赴くままに描きだされたドローイングは、思考の軌跡を紙の上に、布の上に残すという意味で、一回的な思考のリアルな痕跡であるといえる。
コレクションは、だから、そうしたささやかな、自然な痕跡を際立てるかのように、無彩色で抑制された調子にまとめられている。また、シャーリングを施したスウェットシャツなど、衣服を支える構造と装飾とを架橋するシャーリングを施したウェアがところどころに見られるものの、全体として過度な表現性は影を潜め、風に揺れるような抜け感をこそ強く感じさせる。
こうした抜け感は、榎本がコーディネートのうえでも意識したことだという。すなわち、軽快な素材で仕立てたシャツを、羽織り、あるいはタックインし、しかしボタンを開けて大きくはだける。ここには〈いま・ここ〉の風に揺らめく、1回かぎりの表情が立ち現れるのだ。
そういえば、複製技術時代における芸術作品について論じたドイツの批評家ヴァルター・ベンヤミンは、アウラとは「安らかな夏の午後、地平に連なる山並を、あるいは安らかにしている者に影を落としている木枝を、目で追うこと」であると言っていなかっただろうか──ヴェインの追求した「アウラ」とは、心地よく吹き受けるこの風に、そっと手をふれることにほかならなかっただろう。