ペイデフェ(pays des fées)の2025-26年秋冬コレクションが、2025年3月19日(水)、東京・茗荷谷の「小石川病院」にて発表された。テーマは「分裂」。
これまで安部公房や北園克衛、ウィリアム・マムラーなどにインスパイアされ、デザイナー・朝藤りむ自身の原体験を織り交ぜながら“奇妙で可愛い”コレクションを展開してきたペイデフェ。2025年秋冬コレクションでは、朝藤が幼い頃からのファンで、自身が作り出す少女性に大きく影響を与えているというホラー漫画家・伊藤潤二とコラボレーション。伊藤の処女作にして代表作である『富江』を主軸に、おどろおどろしく、それでいて富江のまぎれもない美しさを落とし込んだコレクションを提案する。
富江という人物は、すべての男を虜にしてしまうほどの絶世の美貌を持つ少女。傍若無人な振る舞いで、言い寄る男たちを下僕のように扱い、やがて異常な殺意を抱き始めた男たちは富江を殺害。それでも富江は決して死なずに、バラバラに切り刻まれたとしても、何度でも蘇る。今季は、プラナリアのように再生、増殖していく富江に大きなヒントを得た。
そんな富江の、分裂を続ける異常性を表したのが、ジャケットやワンピース、スカート、スラックス、トラックスーツにあしらったモチーフだ。妖しげな目つきでこちらを見つめる富江と共に、草花、タコの足、深海魚、蝶などを総柄で表現した。富江を取り囲む、ヴィンテージライクに表現したこれらのモチーフは、高畠華宵や竹久夢二といった、大正から昭和にかけて活躍した大正ロマンを代表する少女画家、そして20世紀にアメリカで創作された架空の神話、クトゥルフ神話の神々を参考にしている。
「ファム・ファタール=運命の女は、ドレッシーであってほしい」という朝藤の想いから、ジャケットやビスチェ、ドレスなど特別感のあるアイテムには高級感のある素材を採用。富江モチーフを配したジャカード織のビスチェのフロントは、フリルで縁取ったハート型にすることで、不穏な空気が流れる中にもガーリーな可愛さをプラスした。
また、真っ赤なパフスリーブが目を惹くドレスやチュール素材を重ねたスカートは、艶のあるサテン生地を採用。インパクトのある血のぬめりや血しぶきもまた、サテン生地で表現したものだ。
ドレッシーなアイテムとは一転、スウェットやコンパクトTシャツといったカジュアルなアイテムも散見された。それぞれに富江、また短編ホラー漫画『アイスクリーム・バス』のアートを落とし込み、ファンもうなるコラボレーションならではのアイテムを作り上げた。ドレスダウンさせつつも、フードに連ねたリボンや、大ぶりのスカーフ、タッセル付きのチェーンベルトといったアクセサリーで、ポップにルックを彩った。