和装を今の時代にあった形にしてみたいと思ったから。ベースには、日本人のアイデンティや、優れたテキスタイル文化を育んできた根源にある和装への興味があります。着物の姿には、ある種完成された美しさがあります。36cm幅の生地を無駄なく裁断し、仕立てる、着物の作り方にも完成された美しさがあります。あまりにも美しいがゆえ、デザイナーはこれまで着物という形を変えてこられなかったのだと思います。
一方、世の中を見渡せば、着物をきる方の人数は減っていく一方。それは、着物を作る技術が衰退していくことに繋がります。30年後、50年後という長さで未来を考えた場合、今ある技術を次の世代に引継げるような環境に少しでも貢献したいと思いました。
着物を進化させるには3つのアプローチがあると思います。
1、今の着物の良さを生かし、形を変えずにグラフィックを変えていくこと
2、今まで作られてきた着物の生地を使い、リメイクして着られるものにすること
3、着物の形を新しく変えて、現代にフィットするものにすること
私は、3つめのアプローチをとりました。2014春夏コレクションは、和装とは何かを考えながら、現代のライフスタイルにあった新しい形を考えました。
なぜ着なくなってしまったのか理由を探り、どう改善したら着るようになるのかいう事と、その時に特に研究したのは、どういう特徴が和装を認識させるのかということでした。歴史を調べ、何が日本式なのかと考えました。その答えは「重ね」にありました。襟から胸元への部分にみえる、何層もの生地のグラデーションが日本人がみても西洋人がみても、日本スタイルであるという認識を産んでいたことがわかりました。
2014年のコレクションは時間的な制限もあり形だけ変えることで精一杯でした。しかし、着物の形を変えただけでは、連続性がありません。継承されている技術を新しい形に進化させてこそ、はじめて連続性が生まれます。だから、伝統技術を取り込みたいと思っていました。幸運にもある企画でご縁ができ、460年の歴史を持つ友禅染の老舗「千總」などの工房を拝見し、京都の伝統技術の在り方を知ることができました。江戸(東京)は大衆文化で栄えた都市ですが、京都は公家文化。1点ものの考えが浸透していて、日本のオートクチュール文化に初めて出会い、衝撃をうけました。
私は、半分テキスタイルデザイナー、半分プロダクトデザイナーなので、技術を形にしていくことを得意としています。京都の老舗メーカーと生地を開発し、新しい形と融合させ、2015春夏の「キモノクチュール」コレクションができました。
協力して頂いたメーカーはどこも優れた技術を持っているところ。例えば、千總はイタリアのメゾンにも生地を卸しています。1日に4mしか織れない漆糸とよばれる、漆を練りこんだ西陣織をつくるテキスタイルメーカーとも協業しました。どこも和装が本業ですが、新しい取り組みに対してはオープンで、私がやりたいと考えた着物の形を進化させるアプローチに対しても、好意的でした。
遠くからでは気づきにくいが、近くづくと陰影が感じられるジャガード織りの模様や、手仕事の刺繍や箔加工、奥行きのある美しいテキスタイル、技術を活かして新しい形を作るのは楽しい時間でした。
方法論は間違っていないと感じました。着物を美しいと思ってくれる人が日本だけでなく、世界にもいることを改めて認識できました。
最近、ベトナムで行われたオートクチュールのファッションウィークに招待されました。日本のオートクチュールとして、京都の伝統技術とコラボデーションした現代の着物スタイルでショーを行いました。セレブリティからの反応も好評で、フランスからきた方々からも、伝統をイノベーションするという考えが伝わる素晴らしいアプローチだという言葉も頂き、手ごたえを感じています。
もともと、着物はセミオーダーなので製造と生産、販売方法についても検討しなければなりません。周りの理解を得ながら継続性を持ったスキームを作り、オートクチュールの世界とも日本の着物を結び付けられたらいいなと思います。
本質的に世界が好きだからです。日本人の女性である前に地球にいる人類の1人。日本の文化も好きだけど、海外の文化や考えに触れるのも好きです。デザイナーは服を通して世界中の人とコミュニケーションができる。世界に展開してきたイッセイミヤケを見てきましたし、そのくらいの目標をもって行わければならないと思います。
コム デ ギャルソンやヨウジヤマモトはもちろん、イッセイ ミヤケをはじめとするメゾンを尊敬していますが、時代性や経済、世界の変化が大きくあるので、彼らと同じ道筋を目指してもダメだと感じています。彼らとは違った方法で世界に通じる道筋を探さなければなりません。ファッションで夢を表現し続けたいと考えていますが、パリでショーをやること自体が目的ではないので、今焦る必要はないと考えています。世界で活躍するために必要なことは、着て貰うことも大事。服を作るだけでなく、人に着てもらうところまでを考え、全部を含めてデザインだと思います。
今度パリの展示会にも初出展し、私自身はアジアにも注目しています。アジア諸国を巡り、製品として何が世界のマーケットで足りないのかとリサーチして、世界で販売していく道を探しています。技術を形にする強みから生まれる自分の製品を、継続性を持って売れるサイクルを作っていきたいと思います。もちろん、そのサイクルの中に日本のものづくりという点も取り込んで世界展開していきたいですね。
Interview and Text by Mikio Ikeda