マルニ(MARNI)の2016年春夏メンズコレクションは、70年代に流行したディテールをサンプリングし、得意とするミニマルな世界観の中に巧みに溶け込ませている。極端に襟が長いロングポイントシャツ、レザーシャツ、フラワープリント、ジオメトリック柄などの当時を代表するモチーフを取り入れながら、全体の印象は極めてモダン。どう調理しても灰汁が残りがちな強い食材を、丁寧に下ごしらえすることで、ヌーベルキュイジーヌに生まれ変わらせている。
その象徴的な存在が、70年代をストレートに表現した超ロングポイントのレギュラーカラーシャツで、襟をジャケットの外に出して着こなす。言葉だけで聞くとハードボイルドな70年代の映画スターを想像してしまうかもしれないが、そこは折衷主義を標榜するマルニ。絶妙のさじ加減で現代的に仕上げている。カーフスキンのレザーシャツは、襟以外のステッチや装飾を極限まで排除。前後で丈の長さを変えたデザインが特徴のフレンチスリーブのジオメトリック柄のニットは、流行のジェンダーレスな雰囲気だ。
ジャケットはコンパクトなボックスシルエットの3つボタンシングル、街で着るには必要のないディテールを省いたサファリジャケット、プレーンな2つボタンシングル、身幅がゆったりしたボックスシルエットの3つボタンの4型。とりたてて目新しさはないものの、いつもの安心できるマルニらしいスタイルを描いている。コートは、胸から上の部分が二重になったドロップショルダーのポニースキンのバルカーマンコートが目を惹く。
カラーパレットは、様々なトーンのブルーとブラウンをメインに、チャコールグレー、ワインレッド、レッド、セージグリーン、イエローを最適配置。シューズは、メランジのソックスに三角形模様が印象的なレザーサンダル、サンダルのディテールを取り入れたハイテクスニーカーの2択。バッグはポニースキンのトートバッグやレザークラッチ、ナイロンの大容量バッグの3種類だ。
癖のある70年代のモチーフを取り入れながら、俯瞰すれば360度どこから見ても完璧なマルニ。イタリアが誇る名シェフの”技”を堪能した夜だった。
TEXT by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)