バルマン オム(BALMAIN HOMME)が、2016年春夏コレクションをフランス・パリで発表した。バルマンにとって、メンズのランウェイショーを行うのは、今回が初めて。そんな新たな瞬間に、世界中から視線が向けられた。
今季のコレクションは、20世紀初頭をインスピレーション源にして生み出されている。デザイナーのオリヴィエ・ルスティンはそれを、「アドベンチャー」というキーワードをもって語られるべきだと言う。「その時代の男性が持つマインドセット、ユニークなスタイル、そしてスリルを乗り越え勝ち得た偉業は魅力的に映りました」「彼らは栄光や征服、領地拡大ではなく、新しい価値観の模索や経験を求めました。それゆえ、立ちはだかる未体験の境地に立ち向かったのです」とも。
もちろんそうした意識は、十分コレクションへ反映されているはずだ。しかしもっと直感的に、「アドベンチャー」つまり冒険のイメージが伝わってくるのは、偶然ではないだろう。ファーストルックから終盤に差し掛かるまで続いたのは、ブラウンやサンドベージュなど、広大な大地を彷彿とさせるカラーに染められた、スエードやコットン、レザーを使用したアイテムの数々。ほぼ全てのモデルがかぶっているキャップや、ショルダーにもリュックにもなる2Wayのバッグ、ポケットの多いジャケットやパンツのスタイルもまた、冒険家のかつての栄光を讃えるかのように、デザインされているように思えてならない。
ではバルマンらしさが影を潜めているのかといえば、これまた必ずしもそうではない。例えばファーストルックのライダースには、驚くほど細かいレザーの装飾が施されているし、ショートパンツの裾も、長さを変えたレイヤード仕様だ。日常をはみ出すほどに装飾的で、エッジの効いたシルエットがスタイリッシュさを印象付ける。そうしたブランドのアイデンティティは、その後もバイカー風のディテールや、とびきり豪華な刺繍、細かなレースアップのグラディエーターサンダルとして現れ、程よくコレクションに色を加えていった。
「デザインが形を成していくにつれ、いかに上手に、自分が今感じる想いを具現化しているのだろうと、自分自身のデザインに驚かされることがあります」そうオリヴィエは語ったが、今シーズン「アドベンチャー」をテーマにして取り組んだ彼の心境は、この言葉でクリアに説明され得る。彼が20世紀初頭に心惹かれたのは、栄光や征服ではなく、新しさを求め続けた男性たちがいたから。つまりデザインが想いの具現化だとするならば、オリヴィエは今、未だ見ない自らの可能性を探っているのだということになる。
もしそうなら、今回初めてショー形式で発表したことは、新たな可能性を探るための分かりやすい一歩であった。ただし、サファリルックに得意とするバイカーの要素を取り込んでいるところなどを見ると、むやみやたらに新しさを追求しているわけではないようにも思える。発見とは決して、何かを壊すことではない。まだ見ぬ価値は、アイデンティティを強めるために生み出されるべきなのだ、とでも言うように。