本展では、膨大な数の絵コンテ、作画資料を展示。1シーンを描くために多くの作業や考察が費やされていることに、改めて気が付く。キャラクターは眼差しや口元の動きなどが加えられていくことによって生き生きと描き出され、風景は、実際の風景から抽出した複雑な色彩と陰影によって、より感傷的に表現されている。
新海誠作品に特徴的な、繊細で色鮮やかな風景描写は、物語を暗示したり、登場人物の心理を反映させたりと、作品において重要な役割を担う。『雲のむこう、約束の場所』の雲の描写にはほぼ新海誠本人の手が加えられ、仔細かつ奥行きのあるタッチで描かれている。『秒速5センチメートル』で印象的な桜の場面は、物→影→色の順に手が加えられていく。画に立体感とリアリティが増していくプロセスは、ファン必見の展示だ。
『秒速5センチメートル』の“ねぇ 秒速5センチなんだって 桜の花の落ちるスピード 秒速5センチメートル タカキくん 来年も一緒に桜 見れるといいね!”など、劇中の印象的な言葉を壁面にプリント。感情の深部まで入り込むような独特の台詞は、登場人物が世界を生きていく上での切なさ・悲しさや孤独、運命を感じさせる。
アニメーション技術がデジタルを取り入れ始めた黎明期に作られた『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』から現在に至るまで、映像がよりリアルに、高画質化されていくのがわかる。高い画力はそのままに、立体感や風景の持つ透明感が徐々にプラスされていく。作品制作の過程で、ツールを開発しながらより細かいタッチを実現することで、繊細な“雲”や“光”の表現が完成するなど、時とともに作品が進化しているのがわかる。
時代が移り変わるとともに、作中のモチーフも変化。モノクロ液晶画面だった携帯電話のメール画面は、スマートフォンの画面に。人をつなぐコミュニケーションツールである携帯電話は、新海作品に度々登場するモチーフであり、使われ方を比較してみるのも面白い。
展覧会ラストを飾るのは、新海作品の様々な場面を編集して作られたクロージングムービー。新海作品に共通する、“生きること”や、“心のつながり”といったテーマが見えてくる、壮大なムービーに仕上がっている。
風景描写をプリントしたスマートフォンケースやポストカード、キャラクターのグッズなどが集結。さらに、新海誠の今までの作品のDVDも販売される。展示で気になった作品をチェックしてみては。
展覧会をより面白くしてくれる音声ガイド。今回は、『君の名は。』で主人公・立花瀧役を演じた俳優・神木隆之介が担当する。まるで一緒に展示をめぐっているかのように、神木が作品の魅力を耳元で語りかけてくれる。
開催を記念して、9階の「カフェ ル パン」には、各作品をモチーフとしたメニューを提供するコラボレーションカフェをオープンする。ラインナップは、『ほしのこえ』の映像美を表現するような「トワイライトソーダ」、『秒速5センチメートル』の優しい風景を想い起させる「桜の花びら舞うタルトとお茶のセット」、そして「星を追う子ども」のワンシーンをイメージした「鉱石が光る地下への扉パフェ」など。また、『君の名は。』をモチーフに展開するメニューの中には、瀧と入れ替わった三葉が食べていたパンケーキを再現した「憧れのパンケーキとキャラメルマキアート」が登場する。