ハトラ(HATRA)の2018年春夏コレクションは、ブランドのひとつの転機となった。これまで男女どちらでも着られるユニセックスのアイテムを主軸としていたが、今季はウィメンズラインをスタートさせた。
デザイナーの長見が学生時代に培ったのは、女性の身体にフィットさせるオートクチュールウェアの技法だった。しかし、自分の身体とは関係のないものではなく、自分も身近に感じられるユニセックスのワードローブから始めたいと、ブランドスタートから提案していたのは、あくまで性差を問わない衣服。それから6年。今なら自分なりの方法をもって女性を美しく見せられる服を表現できるのではないか。そう思い立ったのが今季のウィメンズラインのスタートに繋がった。
新たな一歩とも思える今季の表現として、肌を見せることへの寛容さを挙げたい。これまで毎シーズン発表してきた前垂れのデザインは、スリットの大きく入ったタイトスカートとして女性らしいアイテムへとシフトした。最も特徴的な穴の大きく空いたトップスは、幾枚かをレイヤードしてスタイリングしている。しかしながら、実はその元をたどれば着想源はコルセットなどといった身体を守るもので、“隠すこと”を求めてきたハトラらしさに溢れている。
何かから守るということを表しているのは三角のモチーフを散りばめたトップスやパンツも同様。これは何気ない街の風景で長見が目にした断熱材の模様を“ハトラマーク”にアレンジしたという。体型補正コルセットから着想を経たというラッセル素材のパーカーは、独特のテクスチャーながら軽やか。ナイロンタフタは、無菌室などで着用するオーバーコートが着想であるが、それもまたふっくら空気を纏わせるような質感。インダストリアルなファブリックでありながら、ハトラらしく春夏シーズンを彩るに適した素材だと感じられる。
何かを隠したり、守ったりという、その実態の奥には、恐らく人間としての不安心理が存在する。塩縮加工を施したオーガンジーの素材は、人間の心のゆらぎや移ろいを表している。ほのかに漂う儚さや繊細さは、そういった奥底に眠る心理的描写があるがゆえのムード。もっと言えば、女性らしい透明感も同時に感じさせるからこそ、ウィメンズラインを製作した今季のハトラに不可欠な素材だろう。
これだけ身体に沿うシルエットを用いていても、センシュアルに肌を見せていても、今季のキーワードは「安心安全」だと長見は話す。目に見える表現方法がどうであれ、何かから“隠す”“守る”という点で、やはり根底は変わらない。このキーワードは何よりもハトラらしい言葉であること、そして今季のワードローブは、原点回帰し、ステップアップしたハトラだからこそできる表現だということを感じられる。