ディオール(DIOR)の2019 春夏オートクチュール コレクションのショーが、2019年1月、パリのロダン美術館庭園に建てられた大きなサーカステントで行われた。
2019 オートクチュール コレクションを制作するにあたって、マリア・グラツィア・キウリは、サーカスに宿る思い出と創造の世界に想いを馳せた。特に今回のショーは、“パレード”に例えたと話している。
ドマラマティックでスペクタクルなサーカスの世界を構成する上で、マリア・グラツィア・キウリは、タトゥーが施された女性の肌を連想した。ヴィクトリア女王時代のサーカスと祭典の興奮を彷彿させるモチーフを、オートトクチュールでしか成し得ない職人技の数々で肌に重ねるように描いている。その幻想的なクリエーションはまるで魔法のよう。
幻想的な“魔法”をかける上で、ディオールのアトリエでは、対照的に超現実的なクリエーションが行われている。本記事では、ランウェイのなかでもひと際目を惹いた3つのルックをフォーカス。アトリエの職人たちの手によってどのように完成まで至ったのかを追う。
ふわりふわり、ゆらりゆらりと裾が揺れるマクラメ編みのスカートは、ムッシュ ディオールの時代を連想させるシルエット。製作には実に450時間が費やされている。
素材に用いられたシルクのチュールの絶妙なグラデーションカラーは、手作業で染色が施されている。イエロー、ピンク、パープル、グリーン……時の流れとともに色褪せたかのような優しい色合いが奏で合う。
染色後も同様に手作業が続く。土台は1950年代の女性体型にあわせたボディを採用し、そのクラシカルなシルエットに“カナージュ”という方法で、籠を編むようにチュールを編み込んでいく。上から下までが全て同じ素材。職人の手によって丁寧に1本1本編まれたドレスは、プレタ・ポルテでは成し得ないしなやかさと繊細さを感じさせる。
オートクチュールでこれほどまでにスパンコールを使用したのは初めてだったと、マリア・グラツィア・キウリは話しているが、今回は精緻なエンブロイダリーによる煌きの魔法がひとつの見どころでもある。
ふたつめの象徴的なルックとして挙げたいのがその“魔法”にかかった、サーカスモチーフのエンブロイダリードレス。サーカスというインスピレーションを、エンブロイダリーに託したドラマティックな1着だ。サーカスの円形ステージでのパフォーマンスを想わせるモチーフは、戦後の具象絵画を代表するフランスの画家ベルナール・ビュフェの作品を目指した。
エンブロイダリーは、鉛筆や木炭の筆致さえ感じさせるアートをプリントしたファブリックに、スパンコール、シルク糸、ラインストーンを可憐に飾っていくことで完成した。その総時間は実に約700時間。パウダーカラーに混ざりあう豊かな色彩と煌めく装飾が、気まぐれなサーカス団の“自由さ”や“躍動感”をともに表現している。
サーカス団のピエロを演出するクラウン風のドレスが、最後に紹介したいルックだ。まるで跳ねるような動きを見せるスカート部分は、パッドをセットしたボディスーツをベースに、立体的に構成されたスカート部分を巻き付けるように仕上げた。首元のラッフルと相まって、身につければ愉快なピエロの動きを表現するかのような躍動感が生まれる。
従来のピエロのイメージから連想する幾何学的模様は、モダンに解釈。サテンのような風合いが特徴的なレザーの円盤状のモチーフを、ショートスリーブにはストライプ状のブラックのサテンを配している。