ディオール(DIOR)の2021年春夏 オートクチュール コレクションは、2020-21年秋冬シーズンと同じくフィルム形式で発表された。前回同様、イタリア人映画監督のマッテオ・ガローネとタッグを組み、今季は“タロットカード”の幻想的でミステリアスな世界を表現した。
占星術や運命の兆しを大切にしていたというクリスチャン・ディオール。彼の自伝には、先を見る力を持った人々との運命の出会いについて、しばしば書かれており、「あなたのメゾンはファッション界に革命を起こすでしょう!」 と、その予言が現実になったことも回想している。
そんな風に彼の心を掴んだ占いの世界に着目し、マリア・グラツィア・キウリは、複雑でミステリアスな魅力にあふれるタロットカードの世界を表現しようと試みた。
ディオール 2021年春夏オートクチュール コレクションのフィルム(約15分間)
フィルム製作にあたっては、文学の魔術師とも言われるイタロ・カルヴィーノの小説『The Castle of Crossed Destinies(宿命の交わる城)』に感銘を受けたという。また、最古のタロットカードとされるヴィスコンティ・スフォルツァ版のカードの持つビジュアルの力に着目し、魔法にかけられたような美しい世界を再現した。
この魅惑的な物語を構成する中で欠かせないドレス群。今回はその中から3つのルックにおける、製作の舞台裏を公開する。
占いの世界に迷い込んだ女の子が身に纏っていたのは、豊穣の象徴であるザクロの花が描かれたドレスガウン。ザクロの花は、タロットカードの世界における重要なモチーフのひとつにもなっている。
優しいアイボリーの総レースのドレスにあしらう上で、「ラッカポヴェラ」という技法が用いられた。
「ラッカポヴェラ」は、18世紀、家具にあしらわれている漆塗りを彫版を使って真似るというものだが、今回はシルクスクリーンで施し、すべて手作業で着色。各パーツを熱で接着して刺繍、さらにペインティングして完成させている。糸にはあえて古いものを用いることで、そこはかとない儚さや温かみを生み出した。