デザインにおいて、今後の課題は何かありますか。
それはもう永遠にあるのですが……。単純に、もっと感情を鷲掴みするような、より履きやすくエッジの効いたデザインを作りたいですね。
形に一定の制約がある靴づくりに対して、その制約にストレスを感じたり苦労したりすることはありましたか。
最初の頃は確かにありましたね。
履き心地を優先するとフォルムが制限されるし 、素材の面でも耐久性や経年変化を重視するとあまり奇抜なものは使えない。そういったことに捉われず、思い切ったデザインの靴を作っても、洋服のブランドなら許されても靴ブランドとしては信用を失いかねない。だから必然的に表現の制約を感じる部分はあります。
ただ靴は、そう言った制約があるからこそ他と差が出しやすい部分もあって、例えば革などは、原産地から選定して最適な方法で鞣せば他を上回る質感に仕上がるし、ライニングや芯材もきちんと検証を重ねて吟味すれば、明らかに耐久性や履き心地が良くなる。そういった細部を積み重ねていくと、靴として如実に違いが出てくるのです。
逆にズームアウトした場合も、コレクション全体の構成やPR、今の流れのなかでどういう立場であるべきかを見定めたり、その靴に付随するディレクションが必要になる 。つまり視野を広げてフォーカスする先を表現と捉えれば、特に制約は感じないし、やることは尽きないですよね。
視野が広がったきっかけが何かあったのでしょうか。
作っているうちにいろいろ物足りなくなってきたんでしょうね。構成する素材ひとつから最終的に履き手に渡る過程まで、何から何まで気になりだして。ひとつひとつ納得がいくようにやっていたら、気がついたら今のスタイルになっていました 。
クリエーションは時間との闘いもあると思います。作り込んでいくのは大変ではありませんか。
そうですね。とにかく時間を作るしかない 。毎朝8時頃から仕事して、土日もほとんどアトリエで過ごします。ただそれで出来ないことがあっても、それ以上やれとは誰も言わないので。「MAXやる、以上!」みたいな感じですね(笑)。
その忙しさに苦労を感じることはありますか。
苦労を感じないようにするには嫌いにならないことですね。仕事の内容と同時に、どうしたら自分のモチベーションをキープしたまま楽しんで取り組めるかということも同軸で考えるようにしています。これだけの時間携わるからには、つまらないルーティンにしたくないですから。
チームでものづくりをやっていく上で、モチベーションはどのようにして保っているのですか?
まずは楽しい雰囲気作りですかね(笑)。……あとは常に、携わることに喜びを分かち合えるような企画や作品をディレクションするように心掛けています。
そこまで没頭できる靴作りの魅力とは何ですか。
靴作りの魅力……。自分が生きていく上で欠かせないものなので、あえて考えたことがありません。「睡眠の魅力は?食事の魅力は?」と聞かれるのと一緒。魅力が無くなったらやめるものでもないですし。年中毎日、寝る時間より何よりも、靴に携わっている時間の方が長いですから。そういう生態のいきものって感じですかね。
姿勢が一貫されていますね。
一貫というか、それしか出来ないですからね(笑)。
ものづくりを志す人全員が全員、そうなりたくてもなれるわけではないですよね。
自分自身、なりたくてなったというより順応するのが苦手だったので、この道しかなかった、という方がむしろ正しいかも知れません……。
今までのクリエーションを振り返って、ハイライトとなるアイテムはありますか。
あげるとしたら、18歳の頃、3日寝ずに作った最初の1足ですね。“靴って自分で作れるんだ”と思ったあの喜びが、すべての原点のような気がします。