竹ヶ原さんが靴作りのプロセスで一番大事にしているところは何ですか。
プロセスで言えば一番大事にしているところは試し履きかも知れません。サンプル製作のときはイメージや数値で進行するので、実際靴になった時に自分の想像したフィッティングに至らないことがあります。だから、完成したら何度も履いてみて、足入れの印象や履き心地を入念に確かめます。そこから細かくチェックしながら変更を加えていきます。
とにかく履いてみると。
はい。限られた時間でより多くのことを感じ取りたいので、左右でそれぞれ違うモデルを試すこともよくあります。耐久性や屈曲性を確かめるためにサンプルを履いてジョギングしたり、踵を思いっきり引きずって削れ具合をチェックしたりしています。雨の日なんかは防水やスリップのテストに最適です!
背景にそんなプロセスがあったとは知りませんでした。
靴がとにかく好きなので、もちろん他のブランドの靴もたくさん履きますし、ジャンルを問わずスニーカーも革靴もいろんな靴を履きたい。スタイリングとしてもそうですが、履き心地を味わう為だけにも購入します。例えば量販店にあるような安いビジネスシューズでも、こういうフォルムでこのコンストラクションだとどんな感じの足入れになるんだろう、履き続けるとどう馴染んでいくんだろうって気になって買ってしまいます……。だからすぐに靴でいっぱいになってしまうんです。
靴を買うのはリサーチの意味合いもあるのでしょうか。
リサーチという自覚は無いですが、常日頃からあらゆるブランドのあらゆる靴に興味があるので。単純に、素晴らしいと思う靴がいっぱいありますし。所有している靴や記憶からアイディアを掘り起こすことは確かにあるかも知れませんね。
ご自身の所有している靴が着想源になっているのですね。
そうですね、持っている靴とか、今までの経験の中で蓄積してきたものが着想源になるときもあります。あとは他のブランドの靴を見るときに、ここはすごく良いのにここが惜しいとか、もう少しここは改良出来たのではないか、といった見方をしてしまう癖がついていて、そういうジレンマを、自分の靴を作るときの注意点として反映するケースは良くあります。
デザインの中で特に重視されていることは何でしょうか。
整合性と幻想を共存させること。履き心地や品質といった整合性と、「これを履いたらかっこよくなれる」という幻想を共存させる作業です。
整合性と幻想、2つが揃わないといけない。
靴作りにとって大切なことは履き心地の良いラストを設計し、安心できる素材を用いてバランス良く製作することだと思いますが、それだけだとつまらない。それでさらに履き手がワクワクするようなロマンや幻想が加味されたものが、素敵な靴と言えると思います。もっと言えばその靴自体がかっこいいというよりも、その靴を履いた人がかっこよくなるという価値観に焦点を当てたい。だから、一見相反する整合性と幻想をバランス良く持たせること、靴にはどちらも大事なのです。
まず“履き心地の良さ”を実現するのに大事なポイントは何ですか。
木型やソール、製法など色々な要素がありますが、それをひとつひとつクリアしてもバランスが悪ければ良い靴にはらない。逆に言えば全てクリアせずとも魅力ある靴になることがあるので難しいところですね。だからこそ実際に履き心地とデザインのバランスを見るために、とにかく細かい段階で試し履きをすることが重要なのです。
では、竹ヶ原さんの中で“かっこよさ”とはどういうことでしょうか。
自ら選択する意志だと思います。選んだのか、選ばされたのか。強い意志で自ら選んだものは、たとえそれを批判する人がいたとしても、その姿勢自体がかっこいいことだと思います。つまり流されるのではなく、常になにかと対峙しているということ。
時代の風潮に対峙することで、自分の核が見えてくるということですか。
はい、そう思っています。
服は着る人がいて服だ、という考え方がありますが、靴も同じだと思いますか。
靴も一緒だと思います。
では、靴を作る時に“こういう人に履いてほしい”ということを想定して作っているのでしょうか。
もちろんです。靴単体の趣や存在感はもちろん大事ですが、履いた時のスタイリングや状況を想定して作ります。時にはそのイメージとは違う結果になる場合もありますが、最終的には履き手に委ねられる部分ですから。