ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)の2020年秋冬コレクションが発表された。
見たもの、触れたもの、知ったもの、などなど。それらは記憶の中で、時とともにぼろぼろと崩れ、おぼろげな姿をどうにか留めつつも忘却に蝕まれる。かといって、忘れようと望んで忘れることもできす、そんな努力を執拗にしようものなら、かえって強く記憶してしまうかもしれない。
そのように曖昧な関係をとり結ぶ、記憶と忘却。今季のドレスドアンドレスドは、それらの“あいだ”の領域に沈み込む。“I Can't Remember You”をタイトルに掲げ、まったく同じものを呼び起こすことは「できない」、その曖昧さに潜んだ魅惑を表現した。
上半身を露わにしたモデルとともに幕を開けたショー。タックを入れたスラックはブラックカラー、左にはポケットチーフをあしらいエレガンスを漂わせる。続いて現れるのは、精緻なテーラリングが際立つジャケットやコートの数々。シングル、ダブルのジャケットやチェスターコートは、いずれも光沢感のある上品な生地で仕立てられ、肩にぴたりと合った端正なフォルムを示している。また、ゆったりとしたトレンチコートは左の前身頃を二重にし、重厚な雰囲気を漂わせた。
枕を手にし、安眠マスクを着けたモデルが現れる。記憶がもとの意味からずれ、夢へと変化する“眠りの時間”が、ショーに変容をもたらす。ゆったりとしたシルエットに仕上げ、サイドから腕を出せるようスリーブにスリットを開けたトレンチコートなど、いずれもはっきりとしたブラックは鳴りを潜め、一旦穏やかなベージュに変わる。
そして登場するのは、ショー前半のルックを、カラーがぼろぼろと崩れたかのようにホワイトアウトさせた姿だ。姿かたちこそ同じではあるものの、その細部は変容を被る。生地は光沢感のあるものからうって変わり、時間の経過をイメージさせるものに。またスラックスやテーラードジャケットのポケットチーフは、ネームプレートへと姿を変え、エレガンスからいささかずらされる。一方、ボタンはバッジとなり、機能性を失う。
さらにトレンチコートやチェスターコートにはハンドステッチが施され、裾からは糸が垂れ下がり、端正なフォルムにも関わらず未完成/腐敗を思わせる状態へと宙づりにされる。時間とともに、記憶は文字通り色褪せ、細部は忘れられるかもしれない。しかし忘れるからこそ、想像力を働かせる余地もある。そうした曖昧さのもつ魅惑が、ショー全体で表現されたように思われる。