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ドレスドアンドレスド 2025年秋冬コレクション - 日記を綴るように——〈自己〉の輪郭

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ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)の2025年秋冬コレクションが発表された。

〈自己〉を確かめる身振りとしての「手作業」

ドレスドアンドレスド 2025年秋冬コレクション - 日記を綴るように——〈自己〉の輪郭|写真10

今季のドレスドアンドレスドの製作は、デザイナーの北澤武志が、ジャケットやコートに手作業を加えることから始まったという──あたかも「日記を綴るように」。テーラードジャケットにはステッチを施し、裂け目を入れ、ダブルブレストコートにはショルダーにホールを施す。こうして自らとひとり対話をするかのごとく、粛々と手仕事を続けるなかで探ったのが、「工業生産」と「手作業」の関係であった。

ドレスドアンドレスド 2025年秋冬コレクション - 日記を綴るように——〈自己〉の輪郭|写真6

工業生産とは、大量生産・分業体制を背景とする、現代の消費社会を支えるものだといえる。あるモデルのもとで画一的な製品を効率よく生産するこの構造は、しかし、その透明な体系性ゆえ、個々の独自性を不透明なものとして抑圧することとなる。翻ってドレスドアンドレスドは、工業生産とは対極にある手作業に着目することで、画一性からは零れ落ちてゆく〈生〉そのものの息吹を、静かにすくい上げているのだということができる。

ドレスドアンドレスド 2025年秋冬コレクション - 日記を綴るように——〈自己〉の輪郭|写真8

手作業の顕著な例が、ウールギャバジンやモールスキンを用いたテーラリングだ。ドレスドアンドレスドにとって研ぎ澄まされたテーラードジャケットとは、その構築的なフォルムでもって、自分ひとりでは明確に捉えることができない〈自己〉の身体、その不確かな輪郭をなぞるものであった。今季、シングルブレストのジャケットでは、ボディやスリーブに大胆なステッチを施す一方、ダブルブレストでは、フロントの両側に裂け目を施し、その随所をステッチで繋ぎあわせる。そこでは、テーラリングのフォルムの明晰さはそのままに、手作業の執拗さ、そしてそれを支える身体の身振りが浮かびあがってくる。

ドレスドアンドレスド 2025年秋冬コレクション - 日記を綴るように——〈自己〉の輪郭|写真11

ここで、ステッチや裂け目といった手作業は、破壊の衝動によるものではない。実際、ジャケットに施したステッチは、皮膚の伸展方向に沿って走るという「ランゲル線」に着想したものだという。それはいわば、なめらかな表皮に潜む「力の場」に譬えられよう。また、荒々しくジャケットを断ち切る裂け目は、構築的なフォルムを支える毛芯など、通常は不可視なままに留まる要素を顕在化する。そして、コートのショルダーに施したホールは、その両側にボタンを縫いつけることで、裂け目が癒えることを夢想しているようである──なぜならボタンとは、織物と織物を結いとめるものであるのだから──。このように手作業には、テーラリングに対する解剖学的な関心が通底している。壊すことではなく確かめることとして、身体性に結びついているのだ。

ドレスドアンドレスド 2025年秋冬コレクション - 日記を綴るように——〈自己〉の輪郭|写真9

手作業から浮かびあがる身体性こそ、今季のドレスドアンドレスドを特徴付けている。ここで、ひとりの音楽家を引きつけてみたい──坂本龍一だ。デザイナーの北澤も敬愛するこの音楽家は、2023年、生前最後のオリジナルアルバムとなった『12』をリリースしている。晩年の坂本は「日記を綴るように」して、日々ピアノやシンセサイザーによる音のスケッチを録音した。『12』は、そこから12曲を選んでまとめたものだ。

ドレスドアンドレスド 2025年秋冬コレクション - 日記を綴るように——〈自己〉の輪郭|写真2

『12』において坂本は、衝動性からは距離をとり、緩やかな速度で、ひとつひとつの音を丁寧に紡いでゆく。それはあたかも、楽器から立ち上がる音の存在を確かめるかのようだ。そこで音は、空気の振動を捉える耳を通してのみならず、鍵盤に触れる手を通しても知覚される。聴覚と触覚、楽器と身体の交錯から立ち現れる音の在り様を、坂本は力むことなく受け入れていたのではなかろうか。翻って今季のドレスドアンドレスドにおいては、粛々と手を動かす身振りから紡がれる、衣服と身体の不可分な関係から、〈自己〉の輪郭を執拗になぞり、確かめているのだといえよう。

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