それはわかりません。大きく育つと思ったけど育たなかった、というケースもあります。
まず、デザイナーごとに違ったゴールを持っていることを認識してください 。デザイナーの性格や何をしたいのか、何が幸せなのかによって、理想の形が変わりますね。例えば有名ブランドのデザイナーに抜擢されたいと思う人もいるでしょう。反対に自分のクリエイティビティーが100%反映される目の届く範囲でブランドを続けていきたいと思っている人たちもいます。
一番大事なのはデザイナーの創造性。それに加えて一生懸命仕事をすること、外に発信するコミュニケーション力、そして何かを掴むカンを持っていることでしょうか。
特にアメリカでは自分から前に出て行かないと誰もひっぱっていってくれない文化なので、外に発信する力は大事ですね。デザイナー自身が必ずしも持っている必要はありません。デザイナーの周りの誰かが持っているのでも、The News Inc.のようなビジネスパートナーがその役割を担うのでもいいのです。
どこの業界でも同じだと思いますが、物事にはタイミングがあります。同じことでも今やるのと来年やるのは違いますよね。そういう、いつ・何をすべきかを感じられることが大事。それは経験ベースなのかもしれないし、デザイナーが元々持っている場合もあるし、周りにカンの良い人がいて、デザイナーが受け入れるような場合もあります。
例えば、sacaiのデザイナー 阿部さんは非常にカンがいい方ですね。いつ・何をすべきかが自然にわかっているように思えます。もちろん、新しいことを考え、ニットでニットと思わせないようなデザインを行う才能があります。
そして、それを実現した日本のニット業界の卓越した技術も大事なことですね。
アレキサンダー・ワンは星の下に生まれたといってもいいくらい、ミステリアスですね。私が初めて会った時はまだ20歳でした。彼は常に自分のデザイン、アイデアを考えていて、一生懸命でした。
それも洋服だけではなくて、周りの空間までも。ブランドが大きくなるにつれて、その周りの世界観も大きくなっていくのを感じました。彼は最初から周りの空間まで創り出していました。
左) アレキサンダー ワン 2013-14年秋冬コレクション
右) デザイナーのアレキサンダー・ワン
発表した洋服を納期通りに届けることですね。このプロセスが意外に大変なのです。海外から生地を取り寄せようとして、生地のデリバリーが遅れ、全てが後ろ倒しになってしまうこともあります。お店のバイヤーの方も月ごとに定められた予算で買い付けを行っていますので、納期を守りバイヤーとの信頼感を作って行くことが大事なことですね。
ニューヨークで見せるということは、世界に見られるということ。この一言につきると思います。
時期と距離という2つの制約があり、現状注目されているとは言えません。東京コレクションが行われる3月は、アメリカではプレスの立ち上げ時期にあたります。ファッションウィークは、2月のニューヨークに始まり、ロンドン、ミラノ、パリコレクションが終わり、エディターの人たちがプレスとの連絡で忙しくなる時期に東京までなかなか足を延ばせませんね。
かといって、東京コレクションをニューヨーク前にやるのも早すぎますし、他のコレクションの合間に行う余裕はスケジュール的にもありません。
以前、ロサンゼルスコレクションもありましたが、物理的にヨーロッパからも遠く、成功しませんでした。東京はもっと離れているので、タイトなスケジュールの中で訪れるのは難しいと言わざるをえません。
日本のスケジュールに慣れていると、生産体制を変えるのは大変でしょうね。実際にsacaiと一緒に仕事し始めた時は、スケジュールを2ヶ月前倒しするために最初の1年間は大変でした。
発表するコレクションが力強いことが一番大事です。
あらゆる服が氾濫している現代で、誰も手掛けていないニッチなエリアを探して、自分のテリトリーにしていくことが、より難しくなってきています。それでも、強いものを作っていれば作っている程、世界に見せていきたいという気持ちも高まってくると思いますね。
オフィスのデスク風景
日本人は優秀だし、才能を持つ人が多いです。特に何かを制作することに長けています。コム デ ギャルソンに、ヨウジヤマモト、イッセイ ミヤケ。皆当時のアメリカ、ヨーロッパにない力強さがありました。
彼らから受けた影響を打ち破って、自分の力強さを打ち出す次世代のデザイナーがたくさん出てきてくれると思います。
Interview and Text by Mikio Ikeda