ディオール(DIOR)のフォール 2021 メンズ コレクションが発表された。
クリスチャン・ディオールを魅了し、彼自身が手掛けるデザインにも影響を与えた国、中国。今季は中国を着想源に、その伝統的な文化や素材をメゾンのクチュールへと結びつけ、しなやかなエレガンスを提示する。
世界中の現代アートを映しだすという姿勢に基づいてディオールが今季コラボレートしたのは、アメリカのアーティストであるケニー・シャーフだ。大胆にして鮮やか、ポップカルチャーとSFの世界観を絵画やインスタレーションで展開するケニー・シャーフは、本コレクションのために“十二支”を構成する動物のキャラクターのスケッチ作品を手掛けた。
ヴィヴィッドで波打つように流動的なフォルムを示すケニー・シャーフの作品は、シャツやクルーネックニット、ブルゾン、スラックス、ステンカラーコートといったウェア、ベレー帽、そして「サドル」バッグなどへと、プリントや刺繍で縦横無尽にのせられた。アイテムのフォルム自体はベーシックにして端正であり、それだけにいっそう、大胆な総柄や鮮烈なポイントであしらわれたアートワークの存在感を引き立てている。
一方、大胆でアシンメトリックなシルエットの「テイラー オブリーク」コートや、洗練されたシングルブレストジャケットは、メゾンを象徴する「バー」ジャケットへのオマージュとして変奏。リラックス感のあるシルエットを基調としつつも、ウエストのベルトを締めることで、布地は緩やかに身体へと寄り添う。コルセットが生みだす「ニュールック」の懐古的なエレガンスは、ここではベルトによってしなやかに、可塑的に、〈いま〉に呼応するものとして表現されている。
ダブルブレストを基調にラペルを小さくとったジャケットは、ショルダーにエポーレットをあしらうとともに、胸や裾に貼り付け型のポケットを配して。また、秩序立って並んだボタンやポケット、襟が特徴的なセットアップは、中国の人民服をも彷彿とさせる。そうしたミリタリー的・規律的なウェアも、上品な生地感と端正な仕立てによって、しなやかなエレガンスを体現するものへと昇華されているといえよう。
コレクションに通底するのは、ブラックやネイビー、グレー、ブラウンといった落ち着きのある色彩だ。他方で、光沢感のあるブルゾンにのせたレッドやシューズのピンク、そしてケニー・シャーフ作品のヴィヴィッドな色彩が、洗練されたエレガンスにポップでアクティヴなムードを力強く重ねる。また、伝統的な結び飾りを思わせる装飾や、菊の花を表現したブートニアなど、中国の文化に触発されたモチーフもコレクションの随所を彩っている。
© KENNY SCHARF. LICENSED BY ARTESTAR, NEW YORK.