ディオール(DIOR) 2021-2022秋冬 プレタポルテ コレクションが発表された。ヴェルサイユ宮殿の「鏡の間」を舞台にした今季は、その現実離れした幻想的な広間に相応しい“おとぎ話の世界”を描き出している。
マリア・グラツィア・キウリが探求した“おとぎ話”の世界――それは子供の頃に夢見たファンタジーのシンボリックな要素を引き継ぎながら、ステレオタイプに囚われない自由で挑戦的なムードを交差させているのが特徴だ。
例えば“おもちゃの兵士”をイメージした制服は、レッド&ホワイトの差し色が美しいブルーのカシミヤコートのシリーズとして登場。また今季散見されたフード付きのケープやレインコートの中には、まるで「赤ずきん」に見まがう真っ赤なルックも。スタイリングには、センタープレスのパンツ×スクエア トゥのパンプスを合わせたことで、本来の愛らしい少女像を良い意味で裏切る、独立した女性像を描いているようにも感じられる。
かつてムッシュ ディオールが“赤いコート”の美しさを讃えたように、今季はこうした鮮やかなレッドを使用した美しいピースがランウェイに溢れている。時にはワンショルダーのドラマティックなドレスとして、また時にはチェック柄のスカートやロングコート、フーディーとして。
中でも印象的だったのは、真っ赤な薔薇が一面に咲き誇る、グラフィック柄のドレス。まるで『美女と野獣』の原作を連想させるこのピースは、かつてムッシュ ディオールの大切なコラボレーターのひとりであったアンドレ・ブロッサン・ド・メレの原画にオマージュを捧げたもの。高度な技術を駆使した鮮やかな色彩は、ブラックやグレー、ネイビーといった暗色の中で、ひと際存在感を解き放っている。
ディオールを象徴する「カナージュ」モチーフのピースや、新作の「バー」ジャケットなど、メゾンらしいコードを織り交ぜながら、ラストにかけてはファンタジーのプリンセスを連想させるイブニングガウンがランウェイを席巻していく。幾重にも重ねたチュールは、多彩なカラーに溢れながら、手を伸ばせば泡ぶくのように消えてしまいそうな、儚げな表情。その美しくも幻想的な様は、ふと子供時代のピュアなときめきを呼び覚ますかのように、観る者の琴線にそっと触れるのであった。