ミハラヤスヒロ(MIHARAYASUHIRO)が2014年春夏メンズコレクションをフランス・パリで発表した。今回モチーフに選んだのは、漫画家の手塚治虫の作品「火の鳥」の中で描かれた“不死鳥(PHOENIX)"。「人間が何度も間違いを犯すのを火の鳥が見守り続け、いつしか人間が自らの手で素晴らしい世界を作っていく」という漫画のストーリーを、3.11以後の日本、特に福島原発の問題と重ね、復興への願いをコレクションに投影している。
といっても重々しい空気感は皆無だ。最初の3ルックは、約600年前から続く藍の葉を熟成、発酵して生み出される天然染料「SUKUMO」による藍染めのレザージャケット。ライトブルー、ミッドナイトブルー、濃紺と染めの濃さで全く違った表情の“青"は、他にはない日本の伝統技法ならではの独特の魅力に溢れている。
不死鳥のモチーフは、ブルゾンやトラウザーなどに大胆に施された刺繍となって羽ばたいている。小花で迷彩柄を表現したミリタリーのM65ディティールのジャケットは、三原の平和への願いが込められているかのよう。また、遠目ではヒョウ柄に見える火が燃えたぎるような柄からは、現状の福島問題に対する怒りが読み取れる。
アイテムでは、ラペルがダブルになったジャケットが充実。藍染めのジャケットには小花柄のラペルが内側から重ねられており、ベーシックなネイビージャケットには内側にデニムのラペルを配している。ボトムは、スキニー、後ろにもタックが入ったタイパンツ、やや太めのシルエットのショーツなど多彩なラインナップ。「TUMI」とのコラボレーションバッグは、素材に京都の西陣織のシルクを使用している。カラーパレットは、様々な色調のブルー、ブラックをベースに、多色使いの柄物を挿すことで、コレクションに奥行きを与えている。
3.11以後、原発問題をコレクションに投影した日本のデザイナーには、「ノゾミイシグロ」の石黒望と、「翡翠」の伊藤弘子が代表的だが、世界の場でそのデリケートな問題を訴えかけたのは三原が初めてだろう。「一刻も早く良い未来へと導くように祈りを込め、火の鳥のモチーフを選んだ」と話す三原の思いが、コレクションを通して世界中の人に伝わることを願ってやまない。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)