シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)の2022-23年秋冬コレクションが、東京・原宿八角館にて発表された。テーマは「IF I WERE HEATH ROBINSON」。
昔から、文庫本は買ってすぐにカバーを外すというデザイナーの小塚信哉。カバーを外した時の簡素さや本棚に並べたときの統一感が気に入っているから、そしてなにより、どんなモダンなカバーも外せば大正時代にタイムスリップしたかのようなどこか懐かしい表情が現れるから、というのがその理由のようだ。“優れたデザインや豊かさは隠れたところにある”。そんな考えは、小塚の根底にずっとあるものなのだという。
今回のコレクションを手掛けるにあたり着想源としたのは、19世紀末から20世紀前半に活躍した英国の挿絵家、ヒース・ロビンソン。「釣り堀の地下で、実は人が竿に魚をつけている」といった絵を例として、単純なことを大げさに、難解に、ブラックユーモアを交えて描くのが彼の特徴だ。
“見えないところに面白さを描く”ヒースの世界と、“本当の喜びは隠れたところにある”と考える自身の美学が重なったという小塚。今季は、<もしも自分がヒース・ロビンソンなら?>そんなテーマを掲げ、隠すことや余白の可視化をファッションで実現することを目指した。
たとえば、フロントから見ると一見普通のワイドパンツは、ジップを配してサイドをぱっくりと開いているのが特徴。実はスリットの中に絵柄を潜ませており、歩くたびちらりと見えるように仕立てている。ほかにも、コートの内側にポケットを配したり、裏地に柄を施したりと工夫が凝らされており、“デザインを隠す”手法は実に様々だ。
鮮やかなブルーで染め上げた前シーズンから一転、今季はレッドとゴールドをキーカラーに。ジャケットに配されたゴールドに“けばけばしさ”を感じないのは、それが金箔のような、優美な気品を纏っているからだろう。温かみのあるアンティーク調のパレットに細かな刺繍のディテールが加わることで、ルック全体を通してどこかノスタルジックな気配が漂っている。
カチャカチャと音を鳴らしながら登場した“ボタンだらけの服”は、必要がないもの・無駄なものという意の「無用の長物」のイメージを盛り込んだもの。ヒースの大袈裟で、ガチャガチャとディテールを書き込んだ絵と重ね合わせるかのように、真っ赤なセットアップには約300個ものボタンが装飾されている。
「無用の長物」を究極的に表現していたのは、地面を擦るほど長い丈のパンツに、後ろ見頃を数メートルも伸ばしたシャツを合わせたラストルックだ。マントのように裾を翻しながらランウェイを闊歩するモデルの姿はまるで皇帝のようで、観客の目は釘付けに。“無駄なものの美しさ”を誇示しながら、華麗にショーの最後を締めくくった。