シモーネ ロシャ(SIMONE ROCHA)2023年春夏コレクションが発表された。
これまで甘くロマンティックな要素と共に、どこか触れることができない夢のような世界へと誘ってきたシモーネ ロシャ。しかし今季は突然“我に返った”ように、私たちが生きる3次元の世界の現実へと目を向ける。これまでも多くの人間ドラマが繰り広げられたであろう中央刑事裁判所は、そんな今季のランウェイにぴったりの舞台。キーワードに掲げられたのは、「後悔、怒り、苦悩」といった、誰しもの心にある暗く重たい感情の葛藤だ。
自分の意志に反して、様々な感情がせめぎ合い、そして飲み込まれていくように、コレクションピースにも相反する要素が複雑に絡まっているように感じられる。ブランドらしいボリューミーなシルエットで仕上げたミリタリージャケットは、本来持つタフな表情を隠すかのように、甘いチュールのヴェールをすっぽりと重ねて。またフローラル柄の華やかなトップスには、無機質なジップが走るパンツを組み合わせるなど、フェミニティとマスキュリンを一つのルックで組み合わせているのも印象的である。
そして今季は、ブランズ初となる本格的なメンズコレクションもランウェイに登場。ミリタリーウェアやジャケットを軸に、メンズ服ならではの機能性と、ウィメンズから引き継ぐロマンティックなテキスタイルやシルエットを融合した新しいバランス感覚のピースを生み出した。ブランドらしいパールも象徴的に取り入れられ、アイコニックなバッグや、パールの装飾つきシャツ・ソックスなどが繊細な艶めきをプラスしている。
そしてメンズ・ウィメンズ共にあしらわれたのは、自然界の有機的なモチーフ。傷ついた心をヒーリングするように、エキナセアやカモミール、デイジーといった花々が、コレクションピースに寄り添う。
重心を下に設定し、あえて不完全なプロポーションに仕上げたチュールドレスには、シルバーのスパンコールで仕上げたデイジーを力強く咲かせることで、甘さだけではない芯のある女性像を描いているかのよう。心に重くのしかかる暗い感情から目を背けず、向き合う時間こそが、本質的な美しさとなり、新たな可能性を開くカギとなる──そんな精神的な強さを感じさせる今季のコレクションは、未来への希望に満ちたポジティブなメッセージが感じられた。