ペイデフェ(pays des fées)2023-24年秋冬コレクションが、神奈川・大倉山記念館にて発表された。タイトルは「Tabulae AnART omicae」。
“奇妙かわいい”を主軸に、アヴァンギャルドでガーリーなクリエーションを手掛けるペイデフェ。今季は、“絵画解体新書”の意味を持つ造語「Tabulae AnART omicae」をテーマに、無機質化していく身体、つまり、ミイラへのロマンティシズムを、ファッションで表現しようと試みた。
以前より、ヨーロッパの教会や地下墓地に安置されているミイラを見て、多くのインスピレーションを得てきたというデザイナーの朝藤りむ。そんな彼女が次に関心を向けたのは、日本国内に存在するミイラ。中でも彼女を虜にしたのは、明治時代までその風習があったという「即身仏」の存在だ。
「即身仏」とはその名の如く、生きたまま仏になるという仏教における修行の一つである。この世が救いに満ちるその日まで永遠の瞑想を行うため、僧侶は自ら土の中に生きたまま籠り、そして幾つかの過程を踏み、祈りながら息を引き取る。実際に日本各地に現存する即身仏を訪ねた朝藤は、その佇まいや質感に唯一無二の美しさを見出していった。
今季のキー素材となるのは、エンボス加工を施したベロア生地だ。独特のシボ感と、ドライでありながらも独特の光沢を纏う質感は、即身仏の艶やかな皮膚をイメージしたもの。それらベロア生地のドレスやスカートには、無機質化された血管や筋肉の造形を立体的に表現した“解剖図”が刺繍で施されている。
ドレスやジャケット、ティアードスカートなどに配された甘美でダークなグラフィックは、いずれも画家のスズキエイミが描いたもの。新作と旧作を交互に織り交ぜ、「解剖図」や「血管の浮き出た手」、「ヴィーナスの誕生」などを表現した絵柄を洋服へと落とし込んだ。
「ミイラ」というテーマを根底に抱えつつも、ディテールはとことんガーリーに寄せるのがペイデフェ独自のバランス感覚だ。毒気のあるグラフィックと、レースを配した立ち襟やベロアリボンの装飾などヨーロピアンヴィンテージを思わせるロマンティックなピースを融合させることで、信仰対象としての「美しい遺体」を包み込む“聖なる衣装”を完成させた。