バレンシアガ(BALENCIAGA)の2024年夏コレクションが発表された。
深紅のベルベットがドレープを織りなす「劇場」を舞台に披露された、今季のバレンシアガ。そのキーワードは、「パーソナル」であるという。それはたとえば、1つ目のルックでカーコートをまとって登場するのがアーティスティック・ディレクターのデムナ自身の母親であり、最後にウエディングドレスの中に包まれるのがデムナの夫であるという、直接的な部分にまず見てとれる。
コレクションという広く発表されるもののなかにおける、パーソナルなもの。そこに補助線を引くために、19世紀フランスの詩人シャルル・ボードレールが、同時代の画家コンスタンタン・ギースを論じた1節を引用することも、無益ではあるまい──「彼〔ギース〕の目ざすところは、流行(モード)が歴史的なものの裡に含み得る詩的なものを、流行の中から取り出すこと、一時的なものから永遠なるものを抽出することなのだ」。
「歴史的なもの」、つまり時代それぞれに特有なものから、「詩的なもの」を引き出すこと。あるいは、「永遠なるもの」が現れる場としての「一時的なもの」。まるで劇場のように。もしアナロジーを見出すことが許されるのならば、今季のバレンシアガにおいては、パーソナルなもののなかに、人々を捉えるものが立ち現れるのだ、と言うことができるかもしれない。
したがって、衣服の構成要素は、ある種過去の刻印を帯びている。その最たる例が、ヴィンテージの素材だ。たとえば、最初にふれたカーコートは、3つのヴィンテージ素材を用いて仕立てたもの。いわば何者かの歴史の痕跡を残した素材を採用しつつも、溶けるようにオーバーなシルエット、左右で異なるトーンのアシンメトリックな表情、あるいは過剰な数のスリーブなど、再構築に独特の造形性を獲得している。
こうした構成方法は、トレンチコート、ダブルブレストジャケット、総柄のカーゴパンツとデニムパンツを組み合わせたボトムスなど、広く見てとることができる。また、ドレスにおいても、ヨーロッパからアメリカのヴィンテージショップから集めたアイテムを活用。ゆったりとしたそのファブリックには、あたかも過去の時間を吸収しては放出するかのように、放射状にプリーツを施すことで、柔らかく優雅な表情をもたらした。
さて、柔らかなシルエットと両極をなすのが、アウターにおいて顕著に見られる誇張された構築性だろう。テーラードジャケットやロングコートは、ショルダーラインを水平方向に誇張し、身体の曲線を覆い消すビッグシルエットへ。こうしたアウターとともに丈感の異なるボトムスを重ねることで、半ば身体と呼応し、半ば自律したシルエットが形成されている。