ダブレット(doublet)の2025年秋冬コレクションが、2025年1月26日(日)、フランスのパリにて発表された。
悪役を意味する「ヴィラン(VILLAIN)」をテーマとした、今季のダブレット。しかし悪役とは、それを「悪役」と捉える通念や枠組みがあってのことではないか?──たとえば、プラスチック板を折り曲げれば、透明な面に白い筋が走る。透明なプラスチックを望むのならば、それは紛うことなき「欠陥」だ。けれども視点を変えて、その「欠陥」に有用性を持たせる枠組みもありえるのではないだろうか?──「欠陥」と捉え直すことで立ち上がる空間に、今季のダブレットは目を向けているのだ。
ダブレットはだから、衣服を人々が「衣服」として捉える、認識の手前を起点とする。たとえば、シルエット。基本的に人の身体は左右対称にできているのだから、身体に纏うべき衣服もまた、左右対称なものとして思い描かれる。けれども今季のダブレットは、むしろアシンメトリーという「欠陥」でもって、表情に新鮮さをもたらす。裾のバランスを崩し、ボディを斜めに切り替えたストライプシャツ、斜めに、アシンメトリックにパターンを組んだデニムのジャンプスーツ、波打つプリーツが片方に垂れ下がるスカートなどは、その例だろう。
身体のシルエットから離れた「余分な」ファブリックも、それがあんまり過剰であると、衣服の「欠陥」として捉えられるだろう。ダブレットはしかし、むしろその余分さを誇張し、大胆なシルエットを生みだしている。トレンチコートやシャツは、クラシカルな佇まいの振りをしつつ、スリーブを翼のように拡大。テーラードジャケットやフェイクファーコートも過度なオーバーサイズに仕立てることで、力強さを際立たせている。
素材もまた、綺麗に整った肌理を求める枠組みからすれば「欠陥」として捉えられるだろう風合いに目を向けることで、ニュアンスの豊かさを醸しだす。ジャケットやパンツに用いたツイードは、その重厚さを裏切って薄く柔らかな雰囲気で、ほつれたようなヴィンテージ感を帯びる。レザージャケットは、ところどころパッチを剥がしたように、色褪せた質感が散らばる。ノーカラージャケットのほつれは柔らかなラインを描くし、ジャケットやコーデュロイパンツを組み合わせたロングコートは、素材の変化がデザイン性に直結している。
「過剰」な装飾的要素も、随所に見られる。スタンドカラーのジャケットは、ストラップを連ねに連ね、チェーンをあしらうことで、アンダーグラウンドな雰囲気を高めているし、フード付きのロングコートは、バックに裂け目を施すことで、ぱっかり開いた口のプリントを覗かせる。文字通りの「欠陥」でもって「欠陥」を捉える枠組みを転換する──今季のダブレットは、毒をもって毒を制する、認識の療法であっただろう。