エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)の2025年秋冬コレクションが発表された。
自分の身体がどういった形をしているのだろうかと考えたとき、多かれ少なかれ、そのフォルムを思い描くことができる。けれども、背中や顔は直接見られず、そもそも顔についた目から見るのだから、胴体と腕、脚がどんな比率になっているのかは知りようがない。それでも身体のフォルムを「思い」描くことができるのは、身体にイメージが張り付いているからだ。衣服とはいわば、そんな可塑的な身体イメージを自在に具現化するものだといえよう。
今季のエムエム6 メゾン マルジェラは、衣服の拡大・縮小、反転といったささやかな操作を通して、身体イメージの可塑性を開いてみせる。テーラードジャケットやトレンチコート、デニム、ニットにTシャツといったベーシックウェアをもとにしつつも──むしろ、そうであるがゆえに──、つね日頃は当然のものと捉えてきた身体、ひいては衣服のフォルムに異化作用を加えているのだ。
最たる例が、衣服の特定の部位に施した拡大である。シングルブレストやダブルブレストのテーラードジャケットから、トレンチコート、エポーレット付きのブルゾン、ワークテイストのオープンカラーシャツ、はてはVネックニットやTシャツにいたるまで、ショルダーの幅を拡大し、パッドを忍ばせることで、ドロップショルダーのダイナミックなシルエットを生みだしている。
こうした拡大・縮小の操作は、随所に認めることができる。レザー調のバルカラーコート、メルトンのジャケットやロングコートは、バックを切り開き、ライニングを彷彿とさせる素材を加えることで、横方向のシルエットを誇張。ショート丈のトレンチコートでは、ヨークを拡大。逆にデニムパンツでは、サイドにタックを施すことでシルエットを狭め、トロンプルイユ的な効果をあげている。
表裏の反転もまた、継ぎ目なく整った身体のイメージに可塑性をもたらす。パンツは、ライニングに使われるだろう光沢のあるファブリックを、ショートパンツを重ねるかのようにして表に切り替える。端正なフロントのテーラードジャケットやチェスターコートも、バックには光沢のあるファブリックを覗かせる。さらに、トレンチコートやニットワンピース、ノースリーブのニットなどは、シアー素材のレイヤーに覆われ、詰めこまれたかのように乱雑に襞をなすことになる。
量感の誇張、表層の均一性の攪乱といった操作は、素材を通しても行われるといってよい。ジャケットはパファーで仕上げ、ポロシャツはファー素材でアレンジすることで、シンプルな衣服にボリュームを付与する一方、コーディネート面では、タイトなシアートップスにデニムやレザーのパンツを合わせることで、半透明と不透明のコントラストを引き出している。