エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)の2024年秋冬コレクションが発表された。
「抽象」には、さまざまな捉え方があるだろう。具体的なものごとを一般的な高みへと持ち上げる抽象と、具体物に対応を持たない──たとえば観念のような──抽象。研ぎ澄まされた幾何学的な抽象と、情念にたぎる表現主義的な抽象。こういった軸を設定するならば、エムエム6 メゾン マルジェラにとって、今季の鍵とした「抽象」とは、具体から抽象への飛躍であり、造形の幾何学的な試行であったといえるように思われる。
この抽象化があくまで「具体」に視線を投げかけるのは、ここで対象とするのが、衣服という実際に身にまとわれる「物」であるからだ。つまり、テーラリングやデニム、ドレスなど、現代の装いとして親しまれるウェアを起点とはしつつ、その形や素材を捨象し──抽象とは、ある意味で物の具体的な要素を切り落とすことにほかならない──、異なる表情へとあらためて具現化してゆくのだ。
例を挙げるならば、ステンカラーコートやテーラードジャケットといったアウターは、その特徴を踏襲しつつも、袖などに量感を持たせることで、縦に引き伸ばしたようなシルエットに。素材も、通常用いられるだろうコットンやウールではなく、たとえばレザーへと変えることで、その表情を大きく変えている。
シルエットについて言えば、そこでは「線」の姿が多様に追及されているようだ。上述のステンカラーコート、ジレやシャツの引き伸ばしたシルエットのほか、テーラードジャケットやノースリーブジャケットに見られるシャープなショルダーなどを、その例に挙げることができる。また、枕カバーに着想したというトップスは、異なる機能を持つシルエットを幾何学的に抽象化することで得られたものだといえるだろう。
このように衣服を異質なものへと変貌させてゆく操作は、時としてきわめて切り詰めたかたちで行われうる。それはたとえば、衣服に裂け目を施すという身振りによって。ステンカラーコートやニットカーディガンは、サイドにスリットを設けることでケープへと役割を変えるし、通常はライニングに用いるだろうファブリックを使ったスカートは、極端なミニ丈にすることで、アウターのライニングを伸ばしたような、しかしボトムスとも捉えられる、両儀的な位置を得ている。