プーマ バイ ミハラヤスヒロが一人歩きしたからですね。僕自身はパリにもミラノにも行くとは考えていませんでした。ただ、海外で先行してブランドが著名になってしまって。当時はインターネットもないので、”ミハラヤスヒロ”が海外では女になっていたりして (笑)
名前が一人歩きしていて、情報がめちゃくちゃでした。
やはり、”ミハラヤスヒロ”が”プーマ バイ ミハラヤスヒロ”より先行しているべき。海外で発表してくれと言われ、参加せざるを得なくなったことも理由の1つです。海外コレクションのスケジュールは東京と違うので合わせるのが大変でした。例えるなら、昼ご飯食べている時に、晩ご飯を作っているような感覚で、とにかくそれに合わせて、”もうやるしかない”と追いつめられました。
当時、”パリコレ”って口にだすのが恥ずかしい響きでしたし、ミラノのほうが肩の力を抜いてやれると。ただ、やり始めて見ると、ミラノは面白いくらい保守的でした。僕たちのようなブランドを評価する人たちがなかなか来られないといった実情もあった。よりイノベーティブを志向する人はパリコレからしか入れないと感じました。
パリコレクションでの様子 - ミハラヤスヒロ 2014年秋冬コレクションより
ええ。ミラノからパリに移るのに面接がありました。アジア人の僕は異端児であって、どんなことを言われるのかと思っていたら、“ウェルカム。コレクションを行う仲間はファミリーだ。みんなを喜ばせて欲しい。”と言われて、嬉しかった。アートに対するのと同様にファッションに対してもそうなのだなと思いました。
パリでやってみたら素直に良かった。東京コレクションでは賛辞はあっても否定はなかった。パリには賛否両論があった。ジャーナリズムを感じましたね。
パリに憧れがあったわけではないし、権威の世界だと思っていたんです。今、心から思うのは、世界でもああいうところは珍しいと。華やかな部分しか見えないかもしれないですが、デザイナーに対する敬意も理解力もある。ル・モンド(Le monde)などの新聞に自分のことを書かれるのを見ると、政治やスポーツと同様にファッションが扱われている。ファッションが産業ではなくて文化になっていますね。
確かに、日本はいいところです。それを前提にした話ではあるのですが、否定する人は誰もいません。皆が正直にいきてない、”言いたいことを言っていない”と感じることがあります。正々堂々とジャーナリストに喧嘩を売られたり、苦言をいわれるほうが健全です。いつか限界がくるかもしれないから、パリに行ってみなよ!とアドバイスすることもあります。ただ、お金はかかりますよ。そこは文化に投資すると思わないといけませんね。
東京で開催されたショー - ミハラヤスヒロ 2014-15年秋冬コレクションより
最近、ショップを使って行った狙いは、2つあります。
1つはお客さんとスタッフのため。お客さんはもちろんのこと、パリコレに全てのスタッフを連れて行くことはできません。ルーティンになりがちだったので、発表を行うことで、一つのシーズンが終わる気構えを作りたかった。
もう1つは、日本に対してもちゃんと目を向けたかったからです。
東京には、まだインディペンデント性が残っているし、アンリアレイジ、ファセッタズムなどの若くて面白いデザイナーもいます。一方で、必ずしも悪しきことだとは思いませんが、色々なことがシステム化されていく中で、少しずつ創造性がなくなってきているんじゃないかと思います。そしてそれが良いことなのか、それとも悪いことなのかを問いかける人が少ないのでは、と思う時がありますね。
一緒に働いてみて、パタンナーの人やプロダクトの人も含め、プロフェッショナルで素晴らしい会社でした。今のモンクレールにないイノベーティブなことを求められた。ユニセックスではなく、レディースとメンズの間を表現して欲しいといわれ、海外ではメンズが強めな自分を起用するという事が面白いと思い、引き受けました。
確かに、時間は少なくなってきました。でも僕は貪欲なんです。時代の流れとともに20年近く行っていると、一緒に作りあげる仲間も増えました。自分の考え方を理解する仲間がいて、彼らの個性も僕の一部だし、僕よりも僕らしい人がいる。みんなで作り上げていく楽しみを覚え始めました。
とにかく好きなんです、ファッションというよりは自分で作ることが。とにかく何か作りたい。何か人に向かって作りたい。どんなブランドを作りたいか、というよりは、”今”自分が作りたいもの、歓喜をあげたいもの、それを人が喜んでいる姿。そういうことが先にあります。どういうブランドを作りたいのではなく、今自分が作りたいものを作っていった結果でしかないと。
僕はアートに興味を持って、結果的にファッションに興味ができて、この世界にいます。ファッションは平和。理性や道徳で語られない世界。うまくいく時もいかない時もある。簡単に挫折感を覚えるのであれば辞めている。ビジネスにしても、長く続けてきた魅力をひも解くとそういうことになります。
ファッションは人間的に面白い世界ですね。
Interview and Text by Mikio Ikeda