ディオール(DIOR)の2024年冬メンズコレクションが、2024年1月19日(金)、フランスのパリにて発表された。
ディオールのメンズ アーティスティック ディレクター、キム・ジョーンズが今季、焦点を合わせたのが、メゾン創設者のクリスチャン・ディオールと、20世紀を代表するバレエダンサーのひとり、マーゴ・フォンテインの関係だ。ムッシュ ディオールはバレエと縁が深く、そのドレスをフォンテインは愛用していたことで知られる。
この、踊りと装いの華麗な交錯の補助線となるのが、フォンテインとペアを組んで名声を轟かせたバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフと、キム・ジョーンズの叔父コリン・ジョーンズである。バレエダンサーから写真家へと転身したコリンは、著名なダンサーとの親交があり、ヌレエフの日々の生活を捉えた写真集も手がけている。今季のコレクションは、だから、メゾンの華やかな歴史とキムの個人的な記憶が交わるものであるといえる。
独学で写真を学んだコリンは、公式のトレーニングを経なかったからこそ、鋭い直感と人々の営みへの関心に基づいて写真を手がけた。そこには、あらゆる瞬間を愛おしむ鋭敏な視線があるといえる。こうして捉えられたヌレエフの公私の姿は、今季のコレクションにおいて、華やかなクチュールと日常に溶けこむプレタポルテのコントラストに現れている。
キムが初めて手がけることになったメンズのクチュールは、バレエダンサーの華やぎを反映している。たとえば、1950年、ムッシュ ディオールが考案し、フォンテインが着用したドレス「ドビュッシー」のきらびやかさ。流麗なラインを描くダブルコートやシアートップスなどに、光きらめく装飾を細やかに施した。また、ヌレエフのアンティークテキスタイルへの関心にも目を向け、彼が所持していた日本の打掛をもとに、銀色にきらめくガウンへと昇華している。
一方、プレタポルテにおいては、バレエの華麗な運動を想起させる、構築的でありながらも流れるようなシルエットが特徴。その時に鍵となるのは、やはりメゾンのアーカイブであり、ムッシュ ディオールののちにメゾンを手がけたイヴ・サン=ローランの流麗なボリューム感やネックラインなどが取り入れられている。また、キムが発案したミニマルなダブルブレストジャケット「オブリーク」には、「バー」ジャケットの曲線的なシルエットが反映されている。
また、ヌレエフの多様な側面を反映するかのようなウェアも。バレエの鍛錬の場面を彷彿とさせる、ボディスーツやタイトなニットに加えて、コリンの写真にしばしば捉えられたヌレエフの装いを思わせる、襟付きのジャケットなど、カジュアルなテイストのウェアを上品な佇まいにまとめた。